2026年01月24日

私たちは統一教会に家庭を破壊された

 将来の夢は「石ころ」――。
 高校の卒業アルバムに書いた言葉を問われ、彼はそう答えた。

「ろくなことがないだろうということです」

 45歳となったいまの自分についても「生きているべきではなかったと思います」と語った。

 安倍晋三元首相銃撃事件で、殺人などの罪に問われた山上徹也(1980年生まれ)被告に、無期懲役の判決が下された。
 罪と罰のあり方を思うとき、この量刑は重いのか、どうなのか。
 何とも、やりきれない気持ちになる事件である。

 言うまでもなく、彼は断罪されるべき加害者である。
 だが同時に、悲惨な生い立ちを背負わされた被害者でもある。
 この二つの顔を一緒にはできず、かといって、まったく別に考えるのも難しい。

「私たちは統一教会に家庭を破壊された」

 被告の妹の証言は重く悲しい。
 相談先も見つからず「合法的な方法ではどうしようもなかった」。
 そう語る彼女らのために、私を含むこの社会は何をしてきたか。
 そんな教団側と癒着を続けた政治とは何だったか

「一本の指のうずきは、同時に、全身の苦痛である」

 戦前、大阪毎日新聞の社長だった本山彦一(1853-1932)は言っていた。
 世の一隅で暗涙にむせぶ人を、指先の小さな痛みにたとえ、それを社会全体の悩みとして受け止められないかとの訴えだった。

 そもそも社会の強さとは、何だろう。
 それは兵器の多さでもなく、株価の高さでもない。
 石ころになりたいと苦悩する人の存在にいかに気づき、救えるか。当たり前のことを、もう一度、胸に刻みたい。


朝日新聞・天声人語、2026年1月22日 5時00分
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16386727.html

 山上被告の裁判の傍聴を続けてきたジャーナリストの鈴木エイト(1968年生まれ)さんが閉廷後、朝日新聞の取材に応じた。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を長年取材してきた鈴木さんは、判決前の今月2026年1月14日と19日の2回、大阪拘置所で被告と接見したという。
 検察側の求刑通りの無期懲役という刑の重さについて「重すぎる。事件を彼1人に背負わせていいのか、とすごく感じた」と語った。

 鈴木さんは、被告の起こした事件を「『宗教2世』と呼ばれる社会問題の被害者が、人生の居場所を奪われた背景のなかで起こした事件だ」と位置づける。
 その上で、有期刑ではなく、仮釈放されるまでの年数が長期化しているとされる「無期懲役」とした判断について「社会から居場所を奪われた人に、戻ってくる余地を与えないような判決になったと思う」と述べた。

「(被告が)行ったことは当然非難されるべきで、適切な量刑を受けるべきだが、(社会の側から)適切なことが行われていればこういう事件が起こらなかった、というところを、裁判所にはもっと深く見てほしかった」

 接見の際、被告が「(旧)統一教会のことは譲れない」と語った言葉が、強く印象に残っているという。
 鈴木さんは「そこに自分がこだわったから事件が起きたんだ、というニュアンスで言っていた。社会問題の被害者がなぜこんな重大な事件を起こしてしまったのか。彼と同じような存在を生み出さないために、(彼に)それを社会に伝えてほしかった」と話した。


[動画]
[写真]
山上徹也被告に無期懲役の判決が言い渡された後、取材に応じるジャーナリストの鈴木エイトさん=2026年1月21日午後2時56分、奈良市

朝日新聞、2026年1月21日 20時28分
判決前に山上被告と接見
鈴木エイトさん、無期懲役に「重すぎる」

https://digital.asahi.com/articles/ASV1N1RSLV1NOXIE00CM.html

「私たちは家庭を壊された被害者ですが、法的にはなんの被害者でもありません。親が宗教に入ってしまった場合の相談窓口は探したけど、そんなところはありませんでした」

 安倍晋三元首相銃撃事件の第9回公判。
 弁護側証人として出廷した山上徹也被告(45)の妹は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による宗教被害に苦しんでいた一家の記憶をそうたどった。 

 被告は、教団に復讐(ふくしゅう)するため、事件を起こした。
「他に取り得る手段はなかったか」という問いに、妹は「徹也は絶望の果てにあった」ときっぱりと反論した。

20年前から深刻化も 対応なおざり
 被告の母親が教団に入信した1991年ごろは、教団の霊感商法や合同結婚式がテレビで取り上げられていた時期だった。

「実の母よりワイドショーを信じるのかと言われると、そうとは言えなかった」(被告)

 母親は子育てを放り出し、教団の教えの実践にまい進した。
 小学生だった妹が40度の熱を出した日も、教団行事を優先した。

 妹は法廷で「私と徹也だけでも児童養護施設に入ればよかった」と回想し、「母は成人で、自らの意思で自らの財産を献金していたので、子どもの私たちが口出しすることは到底できませんでした」と当時の窮状を訴えた。

 教団の被害救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)によると、宗教2世の問題が深刻化していることは20年ほど前から把握していた。
 ただ、全国弁連は教団に対抗する活動で手いっぱいで、公的な救済策もなく、半ば見放されてきたという。
 宗教2世に直接関わるのは信者である親だが、その親を支配しているのが教団だ。
 責任の所在の見極めが難しいという課題もあった。

 証人として出廷した全国弁連の山口広弁護士は「きちんと窓口を設けて裁判を起こしていれば、被告も参加してくれたこともあり得た。努力が足りなかった」と悔やんだ。

支援、行き届いてない
 被告の境遇を我が事として捉える宗教2世は少なくない。
 四国地方に住む20代男性もその一人だ。

「信者であることは絶対に言えず、相談場所もなかった。誰にも話せないのが一番つらい」

 男性は幼い頃から両親に信仰を強制された。
「やめたい」と泣きながら訴えたこともあったが、聞き入れられなかった。

 唯一の理解者だった双子の弟は生い立ちに苦しみ、2024年に自殺した。
 男性は心の病にかかり、今も孤独感が拭えない。
「精通した専門家やカウンセラーは十分におらず、支援が行き届いていない」と嘆く。

 事件を受けて厚生労働省は2022年12月、宗教を背景とした児童虐待への対応指針を初めて取りまとめた。
▽ 身体的虐待
▽ 心理的虐待
▽ 性的虐待
▽ ネグレクト
――の4類型を例示し、背景に信仰があったとしても虐待に該当するなら、子どもの安全確保が必要だと踏み込み、全国の児童相談所(児相)や自治体に通知した。

 指針は宗教虐待から子どもを守る「道しるべ」。
 社会に埋もれた宗教虐待の掘り起こしにつながることが期待されているが、各家庭の状況は千差万別で、信仰か虐待かの見極めは容易ではない。

 関西地方の児相の担当者は「背景に宗教があるかまでは検討していない」と打ち明ける。
 虐待に関する通報や相談が多く寄せられる児相には余裕がないこともあり、対象者の内面にまで踏み込む必要があるケースの対応は難しいという。

 東北地方の児相の担当者は「本人がSOSを出してくれればいいが、親の影響で本人も自覚していないケースもあるのでは」と指摘し、緊急的に子どもを引き受ける一時保護は「難しいと思う」とした。

識者「関係機関で積極介入を」
 2024年に発表された国による宗教虐待に関する初の大規模実態調査でもSOSを拾い上げる難しさが示された。

 調査に応じた全国229ヶ所の児相のうち、37ヶ所が宗教虐待の疑いのある計47件について相談対応していたことが判明した。
 半数近くは子ども本人の相談がきっかけだった。

 課題を尋ねたところ、全体の65・5%が「子ども本人が虐待であると気づきにくく、早期発見が難しい」と回答していた。
 子どもが宗教の影響を受けている場合の介入の難しさや、子どもの権利を最優先させることを保護者に理解してもらうことの困難さを指摘する意見もあった。

 児相での対応には限界があるとして、「宗教法人法や刑法で明確に犯罪であることを規定すべきだ」との提言もみられた。

 カルト問題に詳しい立正大学の西田公昭教授(社会心理学)は「厚労省は通達という形で人も金も出さずに現場の仕事を増やしただけ。『やった感』を出すだけでは、宗教2世の無力感はより強まる。相談窓口を用意しているという待ちの姿勢では根本的に何も変わらない。児相、児童心理司をはじめ、関係機関が宗教2世に対する理解を深め、積極的にアプローチする支援体制が必要だ」と指摘する。

 被告に無期懲役の判決を言い渡した2026年1月21日の奈良地裁判決。

「宗教2世として不遇な幼少期、青年期を送っていると強く思った。そういった境遇がなければ、持ち前の頭の良さで大成していたと思う」

 判決後、記者会見に応じた40代の男性裁判員は、被告の過酷な半生に思いを巡らせた。


[写真‐1]
奈良地裁=奈良市で2025年10月28日午前11時36分
[写真‐2]
奈良県警奈良西署から移送される山上徹也被告=奈良市で2023年2月14日午前10時14分
[写真‐3]
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の本部がある建物群。一番上に位置する建物が、韓鶴子総裁が住むとされる「天正宮博物館」=韓国北部・京畿道加平郡で2025年7月25日

毎日新聞、2026/1/22 14:00
埋もれた「宗教2世」のSOS
掘り起こせるか
救済は道半ば

(林みづき、木谷郁佳、飯塚りりん)
https://mainichi.jp/articles/20260122/k00/00m/040/024000c

posted by fom_club at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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