2026年01月20日

小山田信茂と武田勝頼

信玄公生誕500年記念映像
https://www.youtube.com/watch?v=2tSaMYme24o&t=2s

信玄公生誕500年記念特集
信玄公の魅力を探る 〜日本人を魅了する信玄公の生き様〜

https://www.youtube.com/watch?v=kCJ_mfx6sWQ

 岩殿山の中腹にある「ふれあいの館」2階で「勝頼と信茂」の映像に見入っていました:

 郷土の英雄、武田信玄公の生誕500年を記念するYouTubeのドラマができた。
 主人公は、小山田信茂
 武田二十四将の一人で郡内地域を治めた武将だが、武田家を裏切った人物との評もある(※)。
 なぜ山梨県は信茂を「記念ドラマ」の主人公にしたのだろう。

 信玄公生誕500年記念イベントのトークショーで、山梨県の長崎幸太郎(1968年生まれ)知事は「歴史が変わりそうな予感がします」と語った。

信茂を取り上げる必要があった
「郡内」と「国中」。
 山梨県内でおおっぴらに語られることはあまりないが、観光客の流動が大きい郡内と、盆地を中心とした国中の気質とが生んだ「すれ違い」は山梨県に横たわる大きな課題のひとつだ。

 信玄公の生誕500年を2021年に迎えるにあたり、山梨県は2020年、県内すべての27市町村、各市町村の観光関係団体・経済団体などとともに「信玄公生誕500年記念事業実行委員会」を立ち上げ、異例の「自治体制作ドラマ」を発表することにしていた。
 ドラマの主人公を誰にするのか―― これが焦点だった。

「オール山梨を実現するには、あえて小山田信茂を取り上げる必要がありました」

 制作の実務を担った山梨県庁観光文化部観光資源課の鈴木理奈・主任は、そう話す。

 一説によると、小山田信茂は武田信玄の嫡子である勝頼が戦で退却した際に自らの城に入れず、武田家を滅亡に導いた原因となった人物だとされており、こうした小山田信茂の評価が地域間の微妙な感情の遠因とも言われている。
 一方で、歴史研究が進んだことに伴い、そうした人物評に異論も出ていた。

「近年の研究では、小山田信茂の行動は領地や民を守るためのことで、逆臣説の見直しがされてきています」
(鈴木さん)

 反対意見は県庁内からあがらなかったのだろうか。

「小山田信茂を取り上げるとなったとき、確かに反対する人はいました。武田信玄公を愛している人たちからすると、500年記念のドラマなのに信茂が主人公というのはふさわしくないと。そうした中でも、『小山田信茂をぜひとも主人公に』との声は大きかったです」

 長崎知事も「信茂を」と願う一人だった。
 今年2022年4月に開かれた冒頭のトークショーで、長崎知事はドラマにかける思いをこう明かした。

「400年から500年、山梨のみなさんに刺さっている『トゲ』を抜きたかった」

 主人公が決まれば、制作が始まる。
 まずは脚本家を誰にしたらいいか。
 県は、山梨県出身で「ワイン県」の副知事でもある作家・林真理子(1954年生まれ)さんにドラマ制作の相談を持ちかけた。

林真理子、中園ミホ両氏による「三谷包囲網」
 5話からなる記念ドラマの脚本を担当したのは、三谷昌登さん。
 NHKの大河ドラマ『西郷どん』(2018年)で脚本の中園ミホ(1959年生まれ、NHK連続テレビ小説「花子とアン」の脚本担当)さんの協力を務めたことで知られる。
 NHK朝の連続テレビ小説や「ドクターX 〜外科医・大門未知子」など多くのドラマに出演する俳優でもある。

 県庁と林さんの話し合いが始まった直後の2020年9月、三谷さんのスマホに、中園ミホさんからLINEが届いた。

「山梨県が小山田信茂のドラマをやるから、林真理子さんがあなたを脚本家として推薦した」

『西郷(せご)どん』の原作者として、大河ドラマ制作にかかわっていた林さんは、三谷さんを推薦、起用が決まったというわけだ。
 西郷どんを機に知り合って以来、京都出身の三谷さんは、「京都好き」の林さんから「三谷どん」と呼ばれる仲になったという。

 ところが、そんな話を三谷さん本人はぜんぜん知らない。
 三谷さんは当時のことを苦笑交じりに振り返る。

「中園先生のLINEが来てまもなく、今度は林先生からLINEが来て、『知事との会食をセットしたから』と。ぼくがアワアワと戸惑う暇もなく、話はどんどん進んで……」

 翌10月、「常盤ホテル」の客室で向かい合った三谷さんに、長崎知事が語りかけた。

「オール山梨を実現するためには、小山田信茂への誤解から生まれる地域ごとのわだかまりを解決しなければならず、新しい解釈の見方を県が示さなければならない」

 三谷さんは「熱い思いがビンビン伝わってきた」と脚本を引き受け、すぐに配役に着手した。

怪演のイッセーとフレッシュなジャルジャル後藤
 小山田信茂役にお笑いコンビ「ジャルジャル」の後藤淳平さん。
 そして、物語の語り手は俳優のイッセー尾形さんと決め、2人から快諾を得た。

「脚本を書き始めるにあたって、まず、語り手は絶対にイッセーさんと決めていました。イッセーさんと言えば、日本を代表する一人芝居の大家で、ぼくの書き上げた初稿にも、どんどんダメ出しをくださり(笑)……。イッセーさんと話し合いながら、脚本をともに作り上げたという感覚です」

 主役の信茂役にジャルジャルの後藤さんを起用した狙いを三谷さんはこう語る。

「時代劇は固くて難しいと言われますよね。年齢層が若めの人は見ない傾向が強いですから。オール山梨を実現するには、若い人にも見てもらわないとあかん。そうすると、テレビやYouTubeに留まらず、SNSでも若者に人気がある人を主人公にしないといけない。そう考えて、後藤さんしかいないと思い、依頼をしました」

 出来上がったドラマを観て、三谷さんは、
「完成した作品は100点を超えて180点だと思っています。後藤さんをはじめ、俳優陣がいい。そして、演出スタッフは、予算の制約があるにもかかわらず、びっくりするような工夫をしてくれて、脚本をより効果的に見せる仕掛けをしてくれました。完璧な演出だったと思います」
と話す。

三谷さんが最後まで迷ったこととは……
 2021年に行われる予定だった信玄公生誕500年記念イベントは、コロナ禍の影響で2022年に延期された。
「信茂と勝頼」(全5話)の公開も延期され、公開が始まったのは3月から。
 第1話(2022年3月16日公開)は3万8千回再生を超え、5話の総再生回数は15万回を超えた(2022年9月12日時点)。
「地域間のすれ違いを解消したい」という制作側の思いが詰まったドラマは、2023年3月15日までYouTubeで無料公開される。

 信玄公生誕500年記念事業のクライマックスである信玄公祭りは10月28日〜30日に行われることになり、信玄公役は後藤さん、勘助役は三谷さんに決まった。

 ドラマ公開後、観光資源課の鈴木主任のもとにはさまざまな声が届いている。

「若い女性の方から『歴史に興味がなかったものの、ジャルジャルさんのおかげで知ることができた。楽しかった』などの声が多く届きました。また『そうだったのか。こんな歴史解釈もあるのか』という声が届き、このドラマによって小山田信茂の新しい側面を伝えられたのかなと思います」

 三谷さんは、信茂を描くにあたって、歴史研究で判明していることを整理して脚本を書き進めた。

「歴史にウソをつかない。判明している事実をねじ曲げることはしない。この2つを徹底して考えました。脚本の構成は結構早く思いつきましたし、県庁の皆さんからダメ出しされることもほとんどなかったので順調でした。ただ、残念だったことと迷ったことがありました」

 知事からは「松姫のことも描いてほしい」と頼まれていた。
 松姫は、織田信忠(信長の長男)に嫁ぐことが決まっていた武田勝頼の妹。
 しかし、織田と武田が戦になり、嫁ぐことができかった「悲劇の姫」だった。

「信忠と松姫は、ずっと文通をしていて、2人の純愛はいまでも語り継がれるほどドラマティックなので、脚本に盛り込んだら、ドラマは5話完結どころか10話になってしまうかもしれません(笑)。作品の中で、チラリと松姫役の女の子を登場させるのがやっとでした。今回は残念でしたが、松姫のストーリーはぜひ書いてみたいです」

 そして迷ったのは、信茂と勝頼が最後に登場するシーンだった。
 三谷さんの頭の中には2つの案があり、最後まで迷いに迷ったという。

「オール山梨という県庁の皆さんの思い、そして、歴史上判明している信茂と勝頼の関係性を考えに考えた末、決断しました」


[写真-1]
山梨県観光資源課の鈴木理奈さん
[写真‐2]
左が信茂役の後藤さん。右は勝頼役の植木祥平さん(県提供)
[写真‐3]
イッセーさんはいろいろな役で登場します(写真は織田信長バージョン)=県提供

やまなし in depth、2022.09.12
武田信玄生誕500年の記念ドラマ、あえて主人公は「逆臣」
「信茂と勝頼」15万回再生突破!

(文・大野正人)
https://yamanashi.media/?p=1012

(※)小山田信茂と武田勝頼

 山梨県甲斐市宇津谷にある史跡「回看(みかえり)塚(づか)」をご存じだろうか。

 1582(天正10)年3月3日、武田勝頼は織田・徳川連合軍の猛攻撃を受け、居城・新府城に火を放ち落ち延びた。
 
既に多くの家臣は離反し、わずかな手勢と身内による武田軍は、一縷(いちる)の望みをかけて、重臣・小山田信茂の居城・岩殿城(大月市)を目指した

 その途上、塩川を渡り、宇津谷に差し掛かった勝頼の継室・北条夫人は後ろを振り返り、煙の立ち上る新府城を見て、悲しみのあまり歌を詠んだと伝えられている。

春がすみ たちいづれども いくたびか あとをかへして 三日月の空


 この歌を詠んだ場所には歌碑が建てられ、甲斐市の指定文化財「回看塚」として整備されている。

 北条夫人は長篠の戦いの大敗後、相模国・北条氏との同盟強化のため、13歳で武田家に嫁いだ(北条氏康の6女と言われている)。
 同盟が破綻した後も武田家に留まり、氏神である武田八幡宮に夫・勝頼と一族の安泰を念じ、また逆臣を糾弾・呪詛(じゅそ)する願文を奉納するなど、戦国の姫としての気高さと芯の強さを感じさせる数々の逸話が伝えられている。

 歴史探訪の妙味は、ゆかりの場所に赴き、過去の情景やその時代の人びとの心の機微を想像することにある。
 実際、私も「回看塚」がある農道の一角に立ち、新府城跡の方角を眺望しながら、北条夫人の歌を詠んだ心情に想いを巡らせてみた。

 早朝の薄暗い空に、三日月が浮かんでいる。
 月は「時のうつろい(=人生の儚(はかな)さ)」の象徴であり、居城から立ち上る煙は春霞(はるがすみ)のように、その三日月を覆い隠そうとしている。
 敵が迫りくる中、急いでこの地を去らなければならないが、未練で何度も振り返ってしまう。
 これは私の勝手な解釈であるが、この歌から伝わる、18歳の姫が抱く不安や葛藤、切実な想いは、400年以上の時を超えて、私の胸を打つ。

 この後、小山田信茂に裏切られた武田勝頼は逃亡の末、3月11日に田野(甲州市)で北条夫人、嫡男・信勝とともに自刃し、名門・武田家は滅亡する。

 宇津谷で消えゆく三日月を見上げながら、北条夫人は数日後に訪れる過酷な運命を想像していたであろうか。
「たちいづる(立ち出づる)」がこの地ではなく、この世から去ることを意味するのであれば、未練はあるが、いかなる運命も受け入れるという戦国の姫の強い覚悟が、歌に込められているように思えてならない。


毎日新聞、2025/12/7
戦国の姫/山梨
(山梨総合研究所 専務理事 降矢結城)
https://mainichi.jp/articles/20251207/ddl/k19/070/017000c

 戦国大名・武田家の重臣、小山田信茂をたたえる「小山田信茂公顕彰会」(山梨県大月市)は、大月市御太刀2の市民会館で講演会を開き、小俣公司会長が歴史物語「岩殿大岸壁の松風を聴き真実を視る 信茂公の先を見る眼と勝頼公と涙の決別・決断」の演題で講演した。

 信茂は、1582年3月に武田家が滅亡した際、信玄の跡を継いだ勝頼を裏切ったとする「謀反人説」が「信長公記」「甲陽軍鑑」などでみられる。
 小俣会長は、甲斐善光寺付近には、織田信忠により首をはねられた信茂の胴塚「旗持ち地蔵」が建てられ、毎年3月24日を中心に地域の人びとにより祭りが営まれ、大月市初狩町の瑞龍庵跡地に市が建立した石碑があるなど今も慕われていることから、謀反人説は理解できないと説明。
 最近の研究では忠臣であったとする説が、少しずつではあるが世に認められてきているとした。

 小俣会長によると「旗持ち地蔵」のある場所は甲府城下町、甲斐善光寺の鬼門の方角に当たる。
 当時、江戸を守るため徳川家康が鬼門の方角にある日光東照宮に祭られたことから、人びとは信茂を裏切者とはとらえていなかったと考えられると指摘した。
 また1879年に旧陸軍大将・乃木希典が岩殿山上の頂きに立ち「英雄前後幾興亡 剣によって 帳然 夕陽を見る」と漢詩を詠んだ(※)ことについて、「冒頭の『英雄』は信茂に思いをはせて読まれた一語と理解したい」と述べ、集まった約40人の聴衆に「信茂公の冤罪(えんざい)を晴らしていこう」と呼び掛けた。


毎日新聞、2022/12/28
戦国大名・武田家の重臣「信茂公の冤罪晴らそう」
顕彰会・小俣会長、山梨/大月で講演

(小田切敏雄)
https://mainichi.jp/articles/20221228/ddl/k19/040/110000c

(※)乃木希典(1849-1912)は陸軍中佐だった1879(明治12)年に戦術研究のため従兵2人と岩殿山に登り前面にそびえる岩があまりに険しいのでウサギも登れないと感嘆して詩を読んだ。1904(明治37)年の旅順203高地争奪戦の25年前だ。あの難攻不落のロシア軍陣地に対し日本軍が血みどろの戦いを仕掛けている時、彼の脳裏にあの岩殿山のことが浮かんだのだろうか。
 乃木希典の七言絶句は、「欲問当年遺恨長 英雄前後幾興亡 巉巌千尺荒墟上 仗剣帳然見夕陽」とある。
「問わんと欲す 当年の遺恨(いこん)の長きを 英雄前後して幾たびか興亡す 巉巌(さんがん)千尺 荒墟(こうきょ)の上 剣に仗よりて帳然として夕陽を見る」

posted by fom_club at 07:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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