2026年01月15日

理想なき<ドンロー主義>

 新年早々、大国の横暴による「力の支配」をまざまざと見せつけられた。

 2026年1月3日、米国は南米ベネズエラの首都カラカスに対して軍事行動を行い、同国大統領のマドゥロ大統領を拘束したと発表した。
 かねてマドゥロ政権が「麻薬テロ組織」に関与していると主張してきた米国のトランプ大統領であるが、一国の首都を直接攻撃し、その首脳を強制的に排除する蛮行に世界に衝撃が走った。

 確かにマドゥロ氏は、長年にわたり人権や民主主義を抑圧し、多くの移民流出を招いた指導者である。
 かつて南米において安定した民主主義国を誇ったベネズエラは、今や見る影もない。
 大統領の周辺に権力が集中し、不安定な政治・経済運営によって混乱が助長されている。
 ベネズエラにおける民主主義の回復が急務であることは間違いない。

 とはいえ、マドゥロ氏が麻薬密売などの罪で米国において起訴されたことを理由に、他の主権国家を攻撃することは、国際法上の根拠が乏しいと言わざるをえない。
 あたかもベネズエラを自国の内部のように扱うトランプ政権は、横車を押しても押し切れるという傲慢(ごうまん)さばかりが目立つ。

 まして今回の攻撃では、民間人を含む、少なくとも100人の死者が発生している。
 世界のルールメーキングを担うと自任してきた米国が、今や自ら世界の無法状態を生み出す存在になってしまったことは、歴史の流れの大きな転換点を感じさせる。
 力こそがすべてであるかのように振る舞う米国にはまさに帝国主義という言葉が合う。

 ここに来てキーワードになっているのが、「モンロー主義」である。
 米国の第5代大統領ジェームズ・モンローは、欧州諸国と南北アメリカ大陸の相互不干渉を主張したが、この考えは長く米国の外交政策を規定することになった。
 米国が民主主義を掲げて国際政治に深く関与するようになったのは、20世紀の第1次・第2次世界大戦を待たなければならなかった。

 このようなモンロー主義をもじって、トランプ氏は「ドンロー主義」と呼んでいるようだ。
 しかし、注意すべきことが二つある。

 第一は、モンロー主義には深い理想があったことである。
 欧州の権力政治から距離を取るという理念は、初代のワシントン大統領の退任演説(※)においてすでに見られた。
 それは国際政治上の知恵であると同時に、自らを権力政治より上に置こうとする新生共和国の潔癖な理想主義であった。
 現在の「ドンロー主義」に、わずかでも道徳的理想があるのだろうか。

 第二は、米国の欧州に対する孤立主義が、中南米諸国に対する介入主義とセットだったことである。
 西半球こそは自らの勢力圏であるという帝国主義的発想については、トランプ氏は見事にその継承者となっている。
 とはいえ、明確なベネズエラの復興プランを持たないように見えるトランプ氏は、肝心の勢力圏を内側から崩すばかりだろう。

 東半球にあって、日本はますます自国の置かれた状況を考えざるをえない。
「ドンロー主義」に沈む米国をわずかでも立ち止まらせる力が、日本にまだ残っていると信じたい。

※ George Washington's Farewell Address (1796)
https://www.georgewashington.org/farewell-address.jsp

※ 宇野重規(うの しげき)
東京大学社会科学研究所教授。1967年、東京都生まれ。専門は政治思想史・政治哲学。


東京新聞・時代を読む、2026年1月11日 07時38分
理想なき「ドンロー主義」
(宇野重規・東京大学教授)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/461291

 他国に侵攻し、その国の指導者を一方的に拉致し、自国の法廷で裁く。
 そんな暴挙がまかり通るなら、「法の支配」も「国際秩序」も地の底まで落ちたということだ。
 日本のメディアを見ても、米国の顔色をうかがってか、「国際法違反の疑い」などとお茶を濁す表現ばかりが並ぶ。
 日本政府は抗議声明すら出さない弱腰ぶり。
 仮に、中国政府が台湾の総統を拉致し、中国の国内法で裁いたらどうなるか。
 プーチン大統領がゼレンスキー大統領を拉致したらどうか。
 国際社会は黙ってはいないだろう。
 ダブルスタンダードが放置されれば、トランプ政権の横暴は歯止めを失うだろうし、世界は無法地帯になりかねない。

「国際法違反」を批判されると、「ベネズエラ市民が喜んでいる」などと持ち出す人がいる。
 メディアでも、民主化を望む人びとの声が繰り返し伝えられている。
 だが、民主化を支援することと、主権を踏みにじり大統領を拉致することは、まったくの別問題である。
 そもそもこの拉致の背景にあるのはベネズエラの石油を狙う米国の策略であり、「民主化」などというのは建前にすぎない。

 こんな暴挙が許されるのなら、どこかの国がホワイトハウスに乗り込み、トランプ大統領を拉致しても、「民主化」の名目さえ掲げれば正当化されるのか。
 無茶苦茶(むちゃくちゃ)だ。

※ 大矢英代(おおや はなよ)
California State University, Fresno アシスタント・プロフェッサー(2023〜)。1987年、千葉県生まれ。


東京新聞・本音のコラム、2026年1月12日 12時00分
究極のダブスタ
(大矢英代、カリフォルニア州立大助教授)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/461393

 大矢英代がヤッホーくんのこのブログに初登壇するのは、2018年11月21日付け日記「米軍の在外兵力」です。
「琉球新報」に、「世界の米軍基地撤去を、アイルランドで国際会議開幕、『沖縄』も討論へ」(大矢英代通信員)記事を発表しております(2018年11月18日 05:00)
http://fom-club.seesaa.net/article/462854993.html

 大矢英代はドキュメンタリー映画監督でもあり、ヤッホーくんは三上智恵監督との共作、映画「沖縄スパイ戦史」(2018年7月公開)を観ています。2019年05月20日付け日記「映画『沖縄スパイ戦史』」をお読み下さい:
http://fom-club.seesaa.net/article/465790075.html

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