欧米で自国第一主義を掲げる右派ポピュリズムが台頭し、日本でも「日本人ファースト」を掲げる参政党が7月の参院選で躍進する中、既成政党は立て直しを迫られています。
10月4日に投開票が行われる自民党総裁選に関して、ドイツのルートビヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのガブリエレ・フォークト教授(日本学)は「国民が直面する大きな課題を隠さず、率直な議論を積極的に進める必要がある」と指摘します。
10月4日に投開票が行われる自民党総裁選に関して、ドイツのルートビヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのガブリエレ・フォークト教授(日本学)は「国民が直面する大きな課題を隠さず、率直な議論を積極的に進める必要がある」と指摘します。
―― 自民党総裁選でどのような点に注目していますか。
第1は、党内の安定を取り戻せるかという点です。それは日本の政治システムの安定に関わります。最近の首相の頻繁な交代を見ると、小泉純一郎首相後に交代が続いた時期を思い出します。安倍晋三首相の長期政権後、党内に影響力や権力をめぐる競争が起きているとみています。その争いに決着をつけられるかどうかが核心的な問題でしょう。私は安定化には党内の中道派から総裁が登場し、党内のあらゆる派閥に手を差し伸べ、他の中道政党との連立も構築できるような人物が適任だと考えます。
第2の注目点は政治イデオロギーにおいて党内で右傾化へのシフトが起きるのかという点です。これは欧州にとって重要です。日本が今後も安定して価値観を共有できるパートナーであり続けられるのかという問いにつながるためです。
―― 日本の右傾化を懸念しているのですか。
欧州連合(EU)は、右派ポピュリズムの台頭という内側の脅威に直面していますが、リベラルな国際秩序や法の支配の擁護者です。しかし、トランプ米政権がそれに挑戦し、壊そうとしています。欧州諸国、特にドイツは、共有する価値観や貿易などの面で、日本やオーストラリアなど強力なパートナーとなり得る国に目を向けています。
しかし、日本が右派ポピュリズムを歩み始めれば、緊密な協力関係への道は閉ざされてしまう可能性が高まります。総裁選の候補者の顔ぶれをみると、結果次第で将来の連立の組み替えが生じ、そうした方向に進む恐れがあるとみています。
―― ドイツでは排外的な主張を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が2月の総選挙で第2党に躍進しました。右派ポピュリズムの台頭の背景には、何があるのでしょうか。
既成政党が従来通り権力を維持すれば、国民の生活はさらに悪化すると不安をあおる主張が受け入れられています。外国人や社会的に立場の弱い人々を支える既成政党の包摂的な政策に対し、「社会の背骨である、懸命に働く『中産階級』のために政治をしていない」と訴える構図です。それはトランプ氏の米国第一主義も同じです。将来の生活への恐怖をあおるのが、右派ポピュリスト政党の中核だと思います。
ポピュリスト政党が有権者を引き込む力 「日本は限りがある」
―― 日本では「日本人ファースト」を掲げる参政党が7月の参院選で議席を伸ばしました。
参院選で急に移民問題に注目が集まったのには驚きました。日本の政治で有権者はこれまで移民問題にあまり関心を示してこなかったと思います。安倍政権下で農業や介護など特定分野で移民受け入れの道を広げつつも移民政策として位置づけずに議論を避けてきたことが一因と思います。
しかし参政党によって状況が一変しました。そこで起きたのは、外国人観光客によるトラブルも含め「移民は問題」と一くくりにする、非常に単純化された議論です。その背景には欧州と同じく、国民の今の社会的な地位や仕事、社会保障制度が失われるかもしれないという不安をあおり立てる要素があるとみています。
ただ、日本はドイツに比べて外国人の割合はかなり少ない。投票率などからみると政治参加への意識もドイツより低く、ポピュリスト政党が有権者を引き込む力には限りがあります。このため極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進したドイツと同じような状況になる可能性は低いと思います。
主要政党 大きな課題から目を背けずに議論を
―― ドイツや日本だけでなく主要7カ国(G7)では既成政党、とくに中道政党の退潮の傾向が見られます。
ドイツでは中道政党が全盛だった1960〜80年代と比べ、社会の構造が変わり、個々の有権者の人生の歩みがはるかに多様化しています。社会(的な階層)における立場が上下に移動することが絶えず起きています。その結果、生涯を通じて特定の政党を支持する状況ではなくなっています。有権者が消費者と化している時代と言えます。政党を新型iPhone(アイフォーン)を見比べるように、新しい選択肢を試す意欲が政党支持の変動を頻繁に引き起こしています。
―― 既成の中道政党は、どうすればよいでしょうか。
選挙運動を成功させる真の鍵は、有権者に情熱を呼び起こし、その政党が何を掲げているかを理解してもらい、共感させられるかです。2008年の米大統領選でのオバマ氏の「Yes We Can(そうだ、我々はできる)」というキャンペーンはまさに好例でした。
多くの既成の主要政党は有権者をさらに失うことを恐れ、国民が直面する大きな課題を明確に示すのをちゅうちょしているように見えます。しかし「ここを少し調整すれば大丈夫」といった主張は響きません。なぜなら有権者は課題が待ち受けているのを知っているからです。日本もドイツも年金問題や人口構造の変化、社会保障制度が将来どうなるか全く見通せません。主要政党は大きな課題から目を背けるのではなく、有権者に分かるように率直な議論を積極的に進めていくべきです。
※ ガブリエレ・フォークト教授(Gabriele Vogt、1972年生まれ)
ドイツのルートビヒ・マクシミリアン大ミュンヘン日本学教授兼アジア研究所所長。専門分野は日本政治や日本社会など。ハンブルク大教授や早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の客員教授などを歴任。日独フォーラムのメンバーも務める。
[写真‐1]
ドイツのルートビヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのガブリエレ・フォークト教授=本人提供
[写真‐2]
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の集会=2025年1月25日、ドイツ東部ハレ
[写真‐3]
記者会見を開くドイツのメルツ首相。キリスト教民主同盟が初めて「党員意向調査」を導入した2022年の党首選で党首に選ばれた=2025年7月18日、ベルリン
朝日新聞・自民党のゆくえ 2025総裁選、2025年9月29日 10時00分
自民総裁選のどこに注目?
極右・ポピュリズム台頭のドイツ教授に聞く
(聞き手:寺西和男、ベルリン支局長)
https://digital.asahi.com/articles/AST9W1FS8T9WUHBI00ZM.html
自民党総裁選で「保守」という言葉が飛び交っている。
「私は穏健保守」、「自民党は保守政党」……。
我こそが保守だと競うのはなぜなのか。そもそも保守とは何か。
戦後日本の保守思想に詳しい中島岳志・東京科学大学教授に聞いた。
「私は穏健保守」、「自民党は保守政党」……。
我こそが保守だと競うのはなぜなのか。そもそも保守とは何か。
戦後日本の保守思想に詳しい中島岳志・東京科学大学教授に聞いた。
―― 多くの候補者が「保守」を語るこの総裁選をどう見ているか。
この言葉が何を指しているのかわからないまま、みんなが保守、保守と言い始めている。保守のインフレ状態。政治における保守とは何か、定義づけが必要な時期だと思っている。
人間を過信しないからこそ伝統や慣習を重んじる
―― 政治における「保守」とは。
フランス革命に反対する立場の人たちから生まれた近代的な政治の流れであり、その原点は(英国の思想家の)エドマンド・バークだ。
バークの指摘は保守主義の定義として重要な意味を持つ。左派や啓蒙(けいもう)主義者たちは、世界の設計図を描き、革命によってこれを実現すれば世界はよくなると言うが、それは人間の理性や知性への過信、思い上がりではないか。どんなに頭がいい人でも、理性にはほころびがあり、エゴイズムや、やっかみがぬぐいきれない。歴史の風雪に耐えて残された良識、社会的な経験値、暗黙知。それが形となったものが伝統や慣習である。
保守はこれらを重んじるが全く変えないということはない。漸進的な改革、永遠の微調整をしていく。これが保守だ。
―― 自民党は保守政党か。
違う意見にも耳を傾け、落としどころを探るのが保守政治家だった。(元首相の)大平正芳さんが「政治は60点」と語ったが、どんな人でも間違うから40%の余白を残す。これが保守の態度。
むしろこの十数年間の自公政権は、保守の重要な部分を失ったのではないだろうか。
「価値とリスクのマトリクス」に政治家を位置づけると
―― リベラルは保守と対立するのか。
リベラルの対義語はパターナル、つまり介入主義であり、家父長的なあり方と言える。
―― 中島さんは、そのリベラルとパターナルの対立軸を「価値」の軸。自己責任型かセーフティーネット型かを「リスク」の軸として、政治家の特徴を捉えている。石破政権はどう位置づけるか。
安倍、菅政権はCの位置にある(図参照)。岸田政権はCを変えようとしたが、対抗できないままCに包摂された。
CからAへと路線を変えようとしたのが石破茂さんだった。しかし歴史的転換をやりそびれた。変えようとしてもつぶされる姿を見てしまった以上、総裁候補の5人はこれまで通り安倍路線で行こうとなる。
―― 小泉進次郎氏が選択的夫婦別姓の導入を封印したのが象徴的だ。
小泉さんは価値の軸ではリベラルなタイプだが封印した。林芳正さんも本来は宏池会としてAの路線を明示すべきなのにはっきりさせない。
―― 高市早苗氏はCか。
基軸はCだが、積極財政を打ち出しているので、一見@に見える。ただ、基本的にはアベノミクスと同じで、経済を成長戦略に乗せ、勝ち組が引っ張っていくモデルだ。
排外主義が目立つなか、保守政党が打ち出すべきメッセージは
―― 参院選以降、外国人排斥の言説が目立つ。
インフレとインバウンドが大きい。ラーメン1杯1千円は高い。一方で、外国人観光客が5千円、1万円のものを食べている。さらにマナーを守らない外国人観光客のニュースを目にする。日本人が大切にしてきたものが奪われているとの感覚を持つのだろう。
―― この状況で保守政党が打ち出すべきメッセージは。奈良のシカが外国人に蹴られているという話がふさわしいのか。
日本人の生活の引き上げだ。賃上げや再配分で生活の土台を引き上げる。それが偏狭なナショナリズムを抑制する一番の方法だ。
排外主義になってはいけないと訴えることが、本来の保守のあり方ではないか。
―― 総裁選で何が問われるべきだと考えるか。
もっと大きな問いを立てて欲しい。インフレに苦しみ、賃金が十分に上がらない。アベノミクス以降の自公政権の『日本丸』は沈みかかっている。このまま行くのか。別の船を浮かべるのか。リベラルで、リスクを社会化すれば、良い社会になるのでは? そんな対立軸を作って欲しい。
※ 中島岳志(なかじま たけし、1975年生まれ)
南アジア地域研究、近代日本政治思想が専門。著書に「自民党 価値とリスクのマトリクス」「縄文 革命とナショナリズム」など。
[図]
価値とリスクのマトリクス
[写真‐1]
大平正芳元首相
[写真‐2]
討論会に臨む(左から)小林鷹之・元経済安保相、茂木敏充・前幹事長、林芳正・官房長官、高市早苗・前経済安保相と小泉進次郎・農林水産相=2025年9月24日午後0時56分、東京都千代田区
[写真‐3]
中島岳志さん
朝日新聞・自民党のゆくえ 2025総裁選、2025年10月1日 12時00分
「保守」のインフレ状態、自民党が失ったものは
中島岳志さんの指摘
(聞き手:三輪さち子)
https://digital.asahi.com/articles/AST9Z7WC6T9ZUTFK01JM.html

