2020年07月26日

国会は「学級崩壊」状態

 国会の審議中に、議員が娯楽小説を読んだり、スマートフォンで趣味のウェブサイトを閲覧したりする行為が横行している。毎日新聞が新型コロナウイルス対策の審議など国民の関心の高かった5、6月の本会議や各委員会で調査したところ、こうした行為を少なくとも10件確認した。国会は規則で議事と無関係な書籍などを読む行為を禁じており、識者は「言論の府である国会を空洞化させる行為だ」と問題視している。

小説熟読、タブレット、スマホいじりも続々と

 毎日新聞は、黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年延長問題で注目された5月13日の検察庁法改正案の審議中に、平井卓也・前科学技術担当相(自民)がタブレットでワニの動画を約5分閲覧している様子や、大西宏幸議員(同)が戦記小説を堂々と読んでいる様子を確認して報道した。この後、衆参の本会議や各委員会を任意に選び、同様の行為がないか傍聴席から調べた。

 調査の結果、自民党の衆参議員7人と立憲民主党の衆院議員1人の計8人が議事とは明らかに無関係な小説やスマホ画面などを閲覧していたことが判明した。大臣経験者や現職の副大臣も含まれており、スマホで健康食品のモニターに応募していた議員もいた。

 衆院では、義家弘介副法相(同)がコロナ対策のため過去最大の補正予算が審議された本会議でスパイミステリー小説「戦場のアリス」を熟読。採決の瞬間に慌てて本を閉じて立ち上がった。

 今村雅弘・元復興相(同)は「水戸黄門光圀卿示家臣条令」など武家や皇族の家訓を掲載した「家訓集」を読みふけっていた。コロナに備える研究支援や科学技術振興も議題となった委員会の最中だった。

 野田聖子・元総務相(同)は、コロナ対策のための10兆円の予備費の在り方が論点となった委員会で小池百合子・東京都知事の半生を描き話題のノンフィクション「女帝 小池百合子」を机の下に隠しながら熱心に読んでいた。井野俊郎議員(同)も同書をコロナの影響で落ち込む沖縄の観光振興も論じられた委員会で約2時間、読み続けた。

円楽まくら集を熟読 セサミン無料登録も

 福山守議員(同)は、福島第1原発の汚染水処理など原発政策を審議する委員会で西村京太郎氏のトラベルミステリー小説「宮古行『快速リアス』殺人事件」、吉川赳議員(同)はコロナの影響に苦しむ中小企業支援策が焦点となった委員会で「五代目三遊亭円楽 特選飛切(とびきり)まくら集」のページを広げていた。吉川氏は読書の合間にスマホで自転車の通販サイトなども閲覧していた。

 参院では、岡田広・元副内閣相(同)が、就職活動中の学生のデータが企業に販売された「リクナビ」問題を踏まえた個人情報保護法改正案の審議中、サスペンス小説「生贄(いけにえ) 私刑執行人」を周囲の目を気にしながら読んでいた。

 野党では、山崎誠衆院議員(立憲民主)が、東日本大震災の被災地の復興支援を審議する委員会で30分以上、スマホを操作。同僚議員らの質疑中に「軽自動車の販売サイト」を閲覧したり、サントリー社の健康商品(セサミンなど)を無料で試せるモニター登録をしたりしていた。

議員たちの説明は?

 毎日新聞は、議事に無関係とみられる小説やスマホ画面を閲覧していたことが新たに判明した8議員に書面で見解を求めた。
 トラベルミステリー小説を読んだ福山氏のみが対面取材に応じ「本が好きで、つい読んでしまいました。(国民に)本当に申し訳ない。もう二度としません」と深々と頭を下げた。
 スパイミステリー小説を読んでいた義家副法相は書面で「ご指摘や誤解を受けることがないよう、職務に精励してまいります」とだけ答えた。野田元総務相は「女帝」を読んだ理由について「書籍内に自身に関する記載、そして極めて政治的な書籍と聞いておりましたので内容を確認いたしました。以後、気を付けます」と説明している。

 落語の特選まくら集を読んだ吉川氏は書面で「地元での会合などにおけるスピーチの参考にするため閲読いたしました」と回答。スマホで自転車通販サイトを閲覧したことは「コロナ禍で更なる自転車の活用推進がうたわれる昨今であることから関連サイトを閲覧いたしました」としつつ、いずれの行為も「議事進行中であったことに鑑み、猛省しております」とした。

 スマホで健康商品のモニター登録をした山崎氏は「軽率であったと反省しております。今後、このような行動をとらぬよう、緊張感を持って自らを律して議員活動に専念してまいります」とコメントした。

 今村、岡田、井野の3議員からは期限までに回答がなかった。

国会のルールはどうなっている

 国会審議中に議員が娯楽小説などを読む行為は、衆参両院の各規則によって禁じられている。衆議院規則では215条で「議事中は参考のためにするものを除いては閲読してはならない」と規定。参議院規則も211条で「何人も、参考のためにするものの外は、議事中、閲読してはならない」と同様に規定している。逆に議事の参考になる新聞や書籍などの閲覧は認められており、審議中にこうした参考資料を熱心に読む議員もいる。

 スマホの使用については、両院の規則に規定はないものの、衆院では1996年の各党の申し合わせで「携帯電話の使用は禁止する。持ち込みについても、音が発しないように機能を停止する」とされている。ただ、スマホのない時代の取り決めのため、禁止されているのは「通話」と解釈され、審議中に音の出ない状態でウェブサイトを閲覧したり、メールや通信アプリを使ったりする議員が続出している。

 参院では95年の各党の申し合わせで「携帯電話の持ち込み」自体を禁じている。このため、審議中にスマホを見る議員は衆院と比べて少ないものの、それでもスマホを机の下に隠して見ている議員の姿は散見される。スマホいじりは、衆参とも事実上黙認されている状態だ。

言論の府である国会を空洞化

元参院事務局職員の武蔵勝宏・同志社大教授(政治学)の話

国会議員は国民を代表する存在で、法案の採決に参加するのだから、すべての国会審議をまじめに聞いてもらわねばならない。その意味で、審議中に娯楽小説を読んだり、スマホをいじったりする行為は、大きな問題だ。審議に集中しない議員が増えると、言論の府である国会審議の中身が空洞化してしまう。議員の質問に答える政府側も、議員が真剣に聞いていなかったら、きちんと説明しようなどと思わない。議場には緊張感が必要だ。議員はいいかげんな質問や答弁は許さないぞと真剣に耳を傾け、品性のあるヤジなら時には飛ばすぐらいがちょうどいい。今は質問内容を政府に事前通告するのが当たり前になっているから、出来レースのようになることが多い。それに加えて、娯楽小説やスマホを見ている議員ばっかりになったら、国会審議そのものをやる意味がなくなってしまう。

背景に構造的問題

 審議中の娯楽小説の読書やスマホいじりは、一義的には個々の議員の資質の問題だ。だが、各委員会で自民党議員による不適切な行為が目立つ背景には、国会運営の構造的な問題もある。まず、議員の数は与党の方が多いのに、質疑時間は野党の方に多く割り当てられることがある。これは自民党と社会党が対峙(たいじ)した「55年体制」が70年代になってなれ合いに変わる中で定着した慣習だ。与党は最終的には数の力で法案を通すが、野党の質疑時間を増やして見せ場を与え、妥協を引き出す。こうした国対政治が今も続いているため、自民党議員は質問する機会が少なく、委員会の成立に必要な定足数要員として座らされているだけになる。だからヒマなのだ。

 国会に提出される法案は、自民党の部会の事前審査で十分に議論され、了承もされているから、自民党議員には質問の必要がないとも言われるが、これは間違いだ。部会の多くは1、2時間で終わり、十分な議論はなされていない。審議に参加する自民党議員の多くは質問の機会もないから勉強もしない。法案の中身をよく知らないはずだ。そういう状態で質疑を聞いてもおもしろくない。だから、退屈して娯楽小説やスマホに手を伸ばす。近年はスマホの登場でモラル崩壊に拍車がかかっているのだろう。

国会改革が必要

 状況を改善するには、国会改革を進める必要がある。自民党議員にもっと質問の機会を与えて緊張感を持ってもらうことや、委員会成立に必要な定足数を減らして真剣に議論に参加できる議員だけに絞るなど、さまざまな取り組みを検討すべきだ。スマホについては、審議中に私用で使った場合、懲罰の対象にするなど厳しいルールが必要だ。残念だが、そうでもしなければ、議員のスマホいじりはなくならないだろう。


[写真-1]
衆院内閣委員会中に自身で持ち込んだタブレットを閲覧する平井卓也・前科学技術担当相。ワニが大蛇に襲われる動画などを約5分見続けた=2020年5月13日

[写真-2]
衆院内閣委員会中に堂々と小説を読む大西宏幸議員。本は戦記小説「皇国の守護者1 反逆の戦場」とみられ、約20分にわたって読み続けた=2020年5月13日

[写真-3]
衆院本会議中にスパイミステリー小説「戦場のアリス」を熟読する義家弘介副法相。採決の瞬間、慌てて本を閉じた=2020年6月10日

[写真-4]
衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会で「家訓集」を熟読する今村雅弘元復興相。同書には「水戸黄門光圀卿示家臣条令」などが記載されている=2020年5月28日

[写真-5]
衆院沖縄及び北方問題に関する特別委員会中に「女帝 小池百合子」を約2時間読んだ井野俊郎議員。途中、ページを開いたまま同じ姿勢をとり続けた=2020年6月18日

[写真-6]
衆院原子力問題調査特別委員会中に、西村京太郎氏のトラベルミステリー小説「宮古行『快速リアス』殺人事件」のページを開いた福山守議員。取材に「もう二度としない」と反省の弁を述べた=2020年6月16日

[写真-7]
衆院経済産業委員会で「五代目三遊亭円楽 特選飛切まくら集」を熟読する吉川赳議員。読書の合間にスマートフォンで自転車通販サイトなども閲覧していた=2020年5月29日

[写真-8]
参院内閣委員会中に、サスペンス小説「生贄 私刑執行人」を熟読する岡田広・元副内閣相(手前)。周囲を気にしながら読み続けた=2020年6月4日

[写真-9]
衆院東日本大震災復興特別委員会中にスマートフォンを閲覧する山崎誠議員。この後、健康商品の無料モニター登録を始めた=2020年5月19日

[写真-10]
衆院決算行政監視委員会で「女帝 小池百合子」を読む野田聖子・元総務相。机の下に隠しつつ、同僚議員の質疑中も読みふけっていた=2020年6月1日

[写真-11]
衆院経済産業委員会中にスマートフォンで自転車通販サイトを閲覧する吉川赳議員=2020年5月29日

[写真-12]
衆院東日本大震災復興特別委員会中にスマートフォンを閲覧する山崎誠議員。この後、健康商品の無料モニター登録を始めた=2020年5月19日

[写真-13]
国会運営について詳しい元参院事務局職員の武蔵勝宏・同志社大教授(政治学)=京都市で2015年4月14日

毎日新聞、7月25日 12時24分
国会のモラル崩壊
「女帝」熟読、ワニ動画閲覧……
審議と無関係な行為横行

(大場弘行、松本惇)
https://mainichi.jp/articles/20200715/k00/00m/040/167000c

 国会議員の間で、審議とは関係のない娯楽小説を読んだり、スマートフォンで趣味のウェブサイトを見たりするなどのモラル違反が横行している背景に何があるのか。旧通商産業省(現経済産業省)出身で民主党参院議員時代に官房副長官も務めた松井孝治・慶応大教授が、「政」と「官」の両方の経験を踏まえながら分析し、改善策を提案した。
[聞き手・松本惇]
形式化した国会は「学級崩壊」状態

 与野党を問わず、議事とは関係のない新聞のスクラップや書類を持ち込んで読んでいる国会議員はとても多い。衆議院ではパソコンやタブレットの持ち込みが許されているため、委員会の審議中にユーチューブの映像を見たり、メールやSNS(交流サイト)への投稿をしたりする事例も存在するようだ。議員が、形式上は委員会に出席しながら、読書をしたり、スマホを見たりしているのは、国会の実質的「学級崩壊」を意味する。

「学級崩壊」が起こっている時、「遊具」の持ち込みを禁止することは対症療法にはなるが、タブレットやスマホは本来、情報や資料検索に有用ということで、与野党間で議論の上、持ち込みを許容することになった経緯もある。問題の根っこにあるのは、国会が非常に形式的で、実質的な討論の場になっていないことで、国会の議論の形式を根本的に変えることが一番の解決策だと思う。

定足数確保が目的 代理議員が聞いているだけのケースも

 国会がセレモニー化している要因の一つに「定足数」への厳格な考え方がある。議事を進めるために必要な出席議員数のことだ。海外では定足数に対する考え方が緩やかで、国会議員時代に視察した英国や豪州の議会では、出席している議員がきちんと討論を聞いているが、議場はガラガラなことが多かった。議場にいない議員は別の場所で人と会ったりしているが、採決の時にはベルが鳴って議場に戻ってくる。

 これに対し、日本では定足数割れすると審議がストップしてしまうから、国会運営を担う国対(国会対策委員会)役員の議員から「ちゃんと出ろよ」と言われる。テレビ中継がある場合に視聴者から苦情が来ることも考え、用事があってどうしても一定時間委員会を抜ける場合は、代理の議員を立てるほどだ。ある種の生真面目さだが、質問者は事前に決まっており、質問しない議員は、質問と政府側の答弁を聞くだけになっている。

与党議員は「事前審査」で満足

 国会の形式化に拍車を掛けているのは、与党における法案の「事前審査」だ。与党の議員は、党本部の会議室などで、法案が国会に提出される前に、官僚から事前に説明を受ける。そこでは侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行われ、「あいつが言うなら、自分もこういう意見を言わなきゃ」ということで、白熱の討議の場になっており、スマホで暇つぶしする空気ではない。与党議員は、こうした事前審査を経た完成品を、今更国会で議論する必要はなく、国会の議論はある種の通過儀礼であり、必然的に興味は薄くならざるを得ない。

 一方、野党は法案の国会提出後に詳細を初めて知ることになるが、国会に出てくる前に与党で議論が終わっており、与党が過半数を占めている限り、何を言っても法案の中身は変わらない。野党に残された国会戦術は、少しでもメディアに取り上げてもらえるように、法案の中身よりも耳目を引くスキャンダルの追及に力を入れたり、法案の成立を遅らせて会期末に強行採決に持ち込んだりすることで、政府と与党の「強引な国会運営」を批判したりすることになっている。

 そんな与党の議員にとっては、定足数の問題もあって着席は求められるが、法案の中身は先刻承知の上、野党は法案と関係のない質問をしているため、聞いていてばかばかしいと思って、「内職」に走る。野党でも、自分の質問に関係がなく、中身も関心がないという議員は、同様に別のことをしている。政策通と言われる人も例外ではない。私も議員時代、儀礼的な本会議の委員長報告などの際に書類を持ち込んで読んだことはある。

閣僚のアドリブ答弁を嫌う官僚

 さらに、質問と答弁が事前に用意されていることも国会のセレモニー化につながっている。

 私は官僚時代、内閣官房の内閣参事官室で議員からの質問取りと答弁作成の割り振りの責任者をしていた。首相や大臣の答弁書の作成は、政治家側のリクエストだけで作っているわけではない。官僚にとっても、首相や大臣に自由に答弁をされると、法解釈や政策の重要な細部に齟齬(そご)をきたしたり、省庁間の取り決めを破ってしまったりすることになりかねないので大いに困る。だから、議員から質問を取って、答弁資料をつくり、首相や大臣にその通り話してもらう。

 政治主導は、政権を超えて与野党双方で進展しているのに、昭和の時代から続くこの慣習に、官僚は今、自縄自縛になっている。新型コロナウイルス対策でも、国会対応で本来業務が圧迫された厚生労働省の若手官僚から「コロナ対策に集中させてくれ」という悲鳴が上がったことが話題だが、いずこの官庁でも官僚の本音は同じだ。

 新型コロナの感染対策を話し合う専門家会議で議事録を作らないなど、後世に記録を残す姿勢が乏しいことも、安倍内閣に限らず歴代内閣の共通点だ。これには官僚が与党への事前説明や、国会答弁に労力を取られていることも影響している。官僚は優秀で、必ず克明に個人用のメモは取る。しかし、大臣へのレク(説明)、局長室での議論のようなものの議事メモを詳細に取り、後で内容を出席者でチェックして残すという手間をかけるには、日本の行政は忙しすぎる。公文書管理法よりも先に情報公開法が施行され、何でもかんでも全部公開されてしまったらかなわないという官僚の本音もあるけれど、文書をきちんと関係者の同意を取って残す手間をかける余裕を国会は行政に与えていないのだ。

 これまでの慣習を見直し、官僚が本来の仕事をきちんと行い、国民への説明責任を果たし、歴史の検証に耐えうるようにするためにも、閣僚や議員が官僚に依存せず、自由に討論できる国会にして、官僚たちは政策の調査分析や企画立案、国民への説明責任の整備に注力する必要がある。

「条文審査会」導入を 修正協議で与野党が責任を果たせ

 では、国会改革を進めるにはどうすればいいか。まず、定足数の要件をある程度緩和して、本当に議論を行い、そこに参画する議員が出席する、普通の国の議会に近づけるべきだ。そして、国会を実質的な討議の場にするため、与党における厳格な事前審査をやめ、与野党の修正協議を積極的に行うようにする必要がある。

 その際、重要なのは条文審査である。意外と知られていないことであるが、今の国会では、ほとんどの法案で、条文ごとの審議などは行っていない。法律の詳しい解釈は政省令や告示、さらには通達まで詳細に読み込まなければわからない。これらは、法律が成立した後に、担当の課長補佐が、法案を審査した内閣法制局とのやり取りなどを踏まえて政省令、告示、通達などを策定し、さらには逐条解説書などを出版することによって明らかにされるのである。

 無論、それらのプロセスを否定はしないものの、法案の立法趣旨を明らかにし、国民に伝えることこそ、立法府の本来の基本任務であると思う。定足数要件と与党の事前審査を緩めて、与野党の専門家が、役所の局長・課長を相手に法解釈を精査し、条文修正も視野に入れる「条文審査会」を導入してはいかがだろう。

 ドイツでは主要な議案で、必ず与野党による修正協議をしている。政策討議の本番が、自民党本部の会議室というのはいかにもおかしいのではないか。国会で与野党がよりよいものを求めて修正協議をすることになれば、そのベースとなる詳細な議論を、国会でするわけだから、「議論を聞く」「自らも議論に参画する」という意識を議員が共有せざるを得なくなるだろう。

 野党も、「国会で議論して自分たちが修正して最後はまとめるんだ」と考えれば、批判するだけではなく、緊張感を持つ。野党は現在、中途半端な修正協議をして合意してしまうと、「第2自民党」「補完勢力」「ゆ党(野<や>党と与<よ>党の間という意味)」と非難されるのが怖い。それを乗り越えられるよう、これだけの議論をして、こういう理由で修正したと説明できるようにしないといけない。地味かもしれないが、こうした議論を積み重ねることによって、与野党ともにも法案修正への責任が生じ、緊張感が高まるのではなかろうか。

 国会内での議論を活発化させるためには、もっと自由討議を増やすことも重要だ。党首討論はもとより、大臣とカウンターパートとなる野党議員との討論を定期的に行うべきである。さらには、対政府質疑でなく、与野党を超えて議員同士が、時には党議拘束を取り払って自由討議を行うことを定例化してはいかがだろうか。

 例えば、憲法審査会では自由討議を行っているが、「他の議員の質疑を聞いて、自分も発言してやろう」と思っているから、内職する議員は少ない。それが普通の議会、会議の姿だ。ヤジだって議論を聞いているから飛ばせるのだ。議論を邪魔するようなヤジはよくないが、内職をしている方が問題だろう。

 政治家が中身のある討論をしないから、国民も政治に関心がなくなる。政治家同士の自由闊達(かったつ)な討論を増やし、時間無制限の通年国会で、官僚に依存せず、徹底的に議論することが、国民の政治への関心も高める結果をもたらすだろう。

国会改革実現には「国対感覚」を見直せ

 国会改革の大きなハードルになっているのは、国会の「国対感覚」だ。小泉進次郎環境相が国会改革を呼び掛けたが、実現できたことは少ない。改革を求める自民党の若手議員と話すと、「国会改革の必要性は分かっているが、国会を仕切っているのは国対だから」という諦めのような弱音が聞こえる。

 国対は「体育会系」で、経験豊富なベテラン議員や党職員が仕切っていて、「国会は長年こうやって仕切ってきた。トウシロ(素人)が何を言っているんだ」と、書生論は相手にされない。でも、国会の現状は国民から愛想をつかされているわけで、玄人こそ裸の王様にならず、「トウシロ」の意見に耳を傾ける謙虚さを持つべきだ。

 野党の質問時間を確保して、彼らの見せ場を作り、昔のゴールデンタイムのプロレスに例えれば、60分3本勝負で、2本は野党に与えながら午後8時50分には予定通り苦闘の末、2本目のフォールを勝ち取り、原案通りに法案を可決するという、長く戦後日本の国会で受け継がれてきた伝統芸は、国民から愛想をつかされている。そうした「国対感覚」を見直す時期が到来しているのだ。

 自民党の国対委員長を長く務めた国対のプロ、大島理森・衆院議長は、2020年末に憲政史上最長の在任期間となる。国会対策の経緯や慣行を知り尽くした大島議長が、やはり「今の国会の機能と役割を見直すべき」と問題提起をしてくれれば、長い年月の間、封じ込められていたパンドラの箱が開く可能性がある。混乱も生じるかもしれないが、そこに日本政治の一筋の希望が見えるのではなかろうか。

※ 松井孝治(まつい・こうじ)
1960年、京都市生まれ。東京大卒。83年、旧通商産業省入省。94年から内閣官房に出向し、大臣官房総務課法令審査委員を経て、96年秋から橋本龍太郎首相の下で行政改革会議事務局調査員。2000年退官。01年から民主党参院議員。09年、鳩山由紀夫内閣の官房副長官就任。13年に政界を引退し、慶応大総合政策学部教授。19年、有志とともにシンクタンク・創発プラットフォームを設立。


[写真]
松井孝治・慶応大教授=東京都千代田区で2019年6月26日

[一覧表]
国会の本会議や委員会で確認された行為

毎日新聞、7月25日 17時32分
元官房副長官「国会は実質的『学級崩壊』状態だ」
改革拒む「パンドラの箱」とは

https://mainichi.jp/articles/20200720/k00/00m/010/149000c

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