2020年07月14日

若草物語オルコット家の精神に触れる

 『若草物語』が、再び映画化され話題です。
 今年のアカデミー賞衣装デザイン賞も受賞しました。
 新型コロナウイルスの影響で、残念ながら日本での公開が延期になってしまいましたが、こんな時だからこそ本を読んでみませんか?

◆ 日々の創意工夫、あこがれ
<1>ルイザ・メイ・オルコット著、谷口由美子訳『若草物語I&II』(講談社、2090円)


 個性の違う4姉妹が生き生きと日々の生活を送る、その細やかな描写が大好きです。
 少ないお金をやりくりしてお母さんへのプレゼントを買ったり、焼け焦げたスカートを隠してパーティーへ行ったり。
 お菓子作り、ガーデニング、ピクニック、郵便局ごっこ、屋根裏の秘密クラブでの新聞製作。
 日々を創意工夫して楽しむ姿に、10代のころ、とてもあこがれました。
 姉妹は、それぞれが小説を書いたり、ピアノを弾いたり、絵を描いたりしていて、感受性も豊かです。
 中でも、19世紀という古い時代に、自由に振る舞い、小説家を目指すジョーは凜(りん)として魅力的です。
 この本は、4姉妹のその後を描いた続編と合わせて1冊になっています。
 2部では、ジョーはニューヨーク、エイミーはフランスへ。
 メグは結婚して双子を産み、ベスは……。
 そして、ローリーは?
 大人になった4人は、どんな選択をし、どんな人生を歩むのか。
 未読の人は驚くはず。 

◆ 大人になってからの支え
<2>『グレタ・ガーウィグの世界 ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(DU BOOKS、4180円)


 初の単独監督作『レディ・バード』で、アカデミー賞監督賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグ。
 女性監督としては、史上5人目の候補(こんなに少ないとは!)という彼女が作り上げた新しい映画『若草物語』のオフィシャル・メイキングブックです。
 原作者のオルコットへの思い、グレタ自身が書いた脚本について、衣装デザイン、インテリアやセット、出てくるお菓子のレシピも載っていて、時代背景などもよくわかり、小説の副読本としても最適です。
 エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメたちの撮影舞台裏も楽しめます。
『若草物語』をはじめ『指輪物語』『チョコレート工場の秘密』など、毎年、たくさんの児童書が次々と映画化されています。
 それは、子ども時代に読んだ本が、クリエーターたちに深く影響を与えているからだと思います。
 もちろん、クリエーターだけでなく、10代に読んだ本は、大人になってからのあなたをきっと支え、ずっと寄りそってくれますよ。

◆わたしがずっと愛する本
<3> W・サローヤン著、岸田今日子・内藤誠訳『ママ・アイ ラブ ユー』(新潮文庫=品切れ)

 3年以上続いたこの連載も今回が最終回です。
 長い間ありがとうございました。
 新しい本/古い本、柔らかい本/歯ごたえのある本など、バランスを考えて選んできたつもりですが、「なるべく絶版になっていない本を」というご依頼だったため、泣く泣く紹介できなかった本もたくさんありました。
 そんな中で、最後に、わたしが10代の時から偏愛する本をご紹介させてください。
 主人公のキラキラヒメ(そう呼ばれている)は、ニューヨーク・ジャイアンツのエースを目指す9歳の女の子。
 パパと別れてブロードウェーのスター女優を夢見るママに連れられて、ある日突然、カリフォルニアからニューヨークへやってきますが……。
 対になっている『パパ・ユーア クレイジー』は、父と息子の物語で、合わせて読むとさらにおもしろいです。
 2冊とも、生きることの楽しさが、じわじわと湧いてくる本です。
=おわり


東京新聞・東京ブックカフェ、2020年3月23日 02時00分
<小林深雪の10代に贈る本>
「若草物語」を読もう

https://www.tokyo-np.co.jp/article/3620

※ 小林深雪(こばやし・みゆき)『スポーツのおはなし 体操 わたしの魔法の羽』(講談社、2020年2月)発売中。

 1949年につくられた映画「若草物語」の中にあのグレタ・トゥンベリさんを見つけたのは、2020年5月21日のことだった。

 NHK BSプレミアムで放送された中で、長女のメグがマーチおばさまに向かって、こう言っていたのだ。

“How dare you.”

「よくもそんなことを」と脳内で自動翻訳した。

 自慢ではないが、英語は苦手だ。
 なのに確かに聞こえたのは、国連気候行動サミットがあったからだ。
 2019年9月、まだ16歳だったトゥンベリさんは地球温暖化対策に取り組まない大人たちをその言葉で叱った。
 17歳のメグは金持ちの伯母から「おまえの求婚相手は、私の財産を狙っている」と言われ、その言葉で猛然と抗議していた。

 状況は全然違う。
 メグの抗議は字幕では「あんまりよ」となっていた。
 だけど重なった。
 主張する女子同士なのだ、メグもトゥンベリさんも。

 原作でも映画でも、メグは主張するタイプとして描かれていないことは承知している。
 むしろ「主張」が持ち前の妹・ジョーをたしなめる役回りだ。
 だけど、いざとなったら主張するのだ、メグだって。
 そして、それが女子というものだ。

 ということを、『若草物語』(ルイザ・メイ・オルコット著)は教えてくれる。
 だから古びない。
 出版されたのは1868年。
 明治維新の年だが、どんな女子がいつ読んでも、「これ、私のこと」と思える。
 ゆえに1917年以来、繰り返し映画化され、最新版が2020年6月12日から上映中だ。

 可能にしているのが、四姉妹という構図。
 上からメグ(始まりでは16歳)、ジョー(15歳)、ベス(13歳)、エイミー(12歳)。
 1章で「あたしは男の人みたいにやりたいのよ! 男に生まれなかったなんて、ほんとに悔しい」と宣言するジョーのモデルは作者だが、他の3人も美人のメグ、内気なベス、気取り屋のエイミーときちんと役割が与えられている。
 ジョーは文学、ベスは音楽、エイミーは美術と得意分野が割り振られていることもあり、それぞれのストーリーがくっきりしている。

 だから読むたびに新鮮で、気づけば「若草物語」フリーク。
 というのは私の話。
 子ども向け本からスタート、1949年制作映画をリバイバルで見たのが小学4年か5年。
 中学からは文庫版に移行、だいぶ飛んでアマゾンの日本上陸時は記念に「原書」を購入、保存した。
 昨年はミュージカル「Little Women〜若草物語〜」で涙するなどなど、とにかく「若草物語」となるとコンプリート魂がうずく。

 2017年には「光文社古典新訳文庫」から麻生九美訳版が登場、もちろん購読。
 先ほど紹介したジョーの台詞はそこから引用した。
 従来の「お父さま、お母さま」を「パパ、ママ」とし、上品さを保ちながらのポップ度アップに成功している。

 1994年版の映画で印象に残っているのは、「フェミニズムの視点を強調した」という評だった。
 それまで私にとって『若草物語』は“ホームドラマ”だったから正直、驚いた。
 全くボーッとした話だが、何せ小学生で出合った時、「ライスプディング」に一番ひかれた人間だ。
 お米に関係ありそうだが、どんなお菓子だろうという謎は、実は今でも解けていない。

 しかし遅ればせながら大人の目で見れば、確かにジョーはただの「ボーイッシュな女の子」ではない。
 自立したい少女なのだ。
 麻生訳から、ジョーの小説が新聞に掲載される場面を紹介する。
 新人による持ち込みだから、原稿料は出ない。
 だがジョーは、姉妹にこう語る。

「もっといいものを書けば、どこでも原稿料を払ってくれるようになるってさ。ああ、うれしい。そのうち自分の生活費を稼げるようになって、あんたたちにも援助してあげられるようになるかもしれないんだから」

 この視点が強調されているのが、公開中の「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」だ。
 監督・脚本のグレタ・ガーウィグはこう語っている。

「私はこの原作が本当に伝えたいことは何か、はっきりわかっていたの。アーティストとしての女性、そして女性と経済」

 プロデューサーのエイミー・パスカルは、「四姉妹が他の誰かの物語に仕えるために存在するのではないの。自分の物語と他の人の物語のため」と語った。
 彼女の言葉通り、4人の「意思」が原作よりも強調される。
 自分はどういう人間か、どうなりたいのか。
 それぞれが言葉にする。

 中でも従来のイメージを大きく覆す描かれ方をしているのは、エイミーだ。
 ジョーが切望していた欧州旅行を横取りする、甘え上手のちゃっかり屋。
 そんなイメージが強い彼女が、結婚についてこう語る。

「私は女なの。女の稼ぎで家族を養うなんて無理。結婚した途端にお金は夫名義になり、子どもを産んでも彼の子になるだけ。結婚はお金じゃないなんて、のんきに言わないで」

 時系列に物語を追うのでなく、過去と現在、原作なら『若草物語』と『続若草物語』を行き来するように描かれる。
 洗練された手法とテンポよい運びで、彼女たちの悲しみと喜びが鮮やかに浮かぶ。
 米アカデミー賞衣装デザイン賞を獲得したドレスのおしゃれさは、女子心わしづかみものだ。

 従来の映画と全く違うラストも注目だが、最後に紹介したいのは四姉妹の母が働くシーンだ。
 南北戦争下、北軍を支える奉仕活動をする彼女は、黒人女性の同僚に「ずっと国を恥じてきたわ」と語る。
 原作にも描かれないこのシーンに監督の意思を感じ、むやみに感動した私だった。

※ AERA 2020年6月22日号


dot.asahi.、2020.6.20 11:30
いざという時主張する!
「若草物語」最新映画は4姉妹それぞれの“意思“色濃く

(コラムニスト・矢部万紀子)
https://dot.asahi.com/aera/2020061800026.html

 初めて米国で、1年間生活することになった8年前の夏のこと。
 マサチューセッツ州ボストン近郊への引っ越し荷物は最小限にした。

「どうしても持っていきたいけど、いい?」

 その時、小学3年と中学1年だった娘たちの希望で持参したのは小説『若草物語』だ。

 作者ルイザ・メイ・オルコットが、自らの体験を基に執筆した四姉妹の物語は、今から150年以上も前、1868(明治元)年に出版された。
 その後、何度も映画化されたこともあって、いろんな世代で愛され続けている。
 日本では、新型コロナで上映延期になっていた最新作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』が公開されている最中だろう。

 そのオルコット一家が暮らし、不朽の名作が生まれた家『オーチャード・ハウス』は、マサチューセッツのコンコードに博物館として現存している。
 1万5千坪の広大なオーチャード(果樹園)に取り囲まれていることから、教育者だったルイザの父ブロンソンが屋敷名を付けた。
 まるで絵本から抜き出たかのような、当時の風景を彷彿させる豊かな森を背にしたオーチャード・ハウスは、今も世界中のファンを出迎えている。

 ボストン暮らしの時は車で30分程度の隣町に住んでいたこともあり、たびたびオーチャード・ハウスへ足を運んだ。
 そして縁あって、日本人スタッフのミルズ喜久子さんと知り合うことができ、四姉妹が取り組んだクリスマス劇を再現した見学ツアーなど、さまざまな催しに参加させてもらった。

 オーチャード・ハウスの重要な取り組みに、慈善活動がある。
 決して裕福でなくても、困っているだれかのために援助の手を差しのべてきたオルコット家の精神を伝えるためだ。
 娘たちと一緒に、小児病院の子供たちに贈るテディベアづくりを手伝ったことがある。
 ふと、作業部屋の一角に、上皇后美智子さまの写真と花が飾ってあることに気づいた。
 1987(昭和62)年に、当時皇太子妃だった美智子さまがオーチャード・ハウスを見学されたときの一枚だという。

 そしてミルズさんから、「日本人ボランティアのために」という、館長を務めるジャンさんの心遣いだと知らされた。

「若草物語が好きな人はみんな友達です」

 思いやりや愛情に、国籍も人種も関係ない。
 あらためてルイザの本が持つ普遍のテーマに気づかされた。

 新型コロナウイルスのため、オーチャード・ハウスも長期間の閉館を余儀なくされてきた。
 米国は黒人男性暴行死をきっかけに、各地でデモ活動も続いている。
 だが、こんな困難な時だからこそ、「スタッフは伝えられることがある、と開館に向けて、準備を頑張っていますよ」とミルズさんは言う。
 オーチャード・ハウスが発信する米国の良心が、いつの時代も希望の灯りであり続けてほしいと心から願っている。


[写真]
米国マサチューセッツ州コンコードにある『若草物語』の作者ルイザ・メイ・オルコットの一家が暮らしたオーチャード・ハウス。現在は博物館として、世界中のファンに作品の世界観やオルコット家の精神を伝えている=2019年8月、筆者家族撮影

福井新聞・コラム、2020年6月24日 午前10時00分
[人生は旅]
若草物語オルコット家の精神に触れる
困っている人のために

(渡辺麻由子)
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1110133

※ 渡辺麻由子(わたなべ・まゆこ)
元福井新聞記者。結婚を機に福井を離れ、退職。夫の留学で2012〜2013年米国マサチューセッツ州で生活し、帰国後フリーライター・編集者として活動。夫の転勤で2018年カリフォルニア州、2019年からはメリーランド州で暮らしている。ハイスクール2年生の二女と、カリフォルニア・ロサンゼルスに残り、大学に通う長女がいる。

posted by fom_club at 21:42| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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