2020年07月12日

石井妙子が見た都知事選

 東京都知事選で歴代2番目の得票数で再選された小池百合子氏(67)。
 その数奇な半生を描いた『女帝 小池百合子』が、ノンフィクション作品として異例の20万部を超す売れ行きとなっている。
 3年半をかけて取材した著者の石井妙子さんが浮き彫りにするのは、聞き心地の良い甘美な物語を上書きしてきたポピュリスト政治家の実像だ。
「小池氏は私たちが生み出した平成の写し鏡。蜃気楼(しんきろう)に喝采を送るような危うさをはらんでいることをもっと知るべきだ」と警鐘を鳴らす。

「芦屋令嬢」「カイロ大首席卒業」と称した看板を武器にキャスター、政治家へ。
 政界再編の中で政党を渡り歩き、環境相、防衛相を歴任、いま首都のかじ取りを担う。

「学歴の詐称疑惑が注目されたが、書きたかったのは平成という時代そのもの。平気でうそをつくという自身の問題もさることながら、なぜこうした人物が生まれ、なぜ選ばれ続けるのか。政治のあり方、メディアの責任、ひいては民主主義を問い直したかった」

 100人を超す関係者の証言を集めた。
 徹底した現場取材、丹念な資料の読み込み。
 何より土地に刻まれた情念やエピソードの背景を読む感受性が、作品に深みと凄(すご)みを与えている。

〈その場に立った時、「芦屋令嬢」という言葉が、初めて胸に切なく迫った〉

 甲南女子中・高を経て関西学院大中退。
 経歴をたどり、神戸・阪神間の雰囲気を作品に落とし込んだ。
 線路脇の生家跡はコインパーキングになっていた。
 そこで感じたのは「階層の格差」だ。
 富めるものは富み、貧しいものは貧しい。

「上へ上へという脇目もふらぬ上昇志向は芦屋で育ったことが影響している」

◇ 権力を手に

 平成とともにテレビから政界へ。
 日本新党、新進党、自由党、保守党、自民党。
 機を見るに敏、風向きを読むのに長(た)けていた。

〈男の為政者に引き立てられて位を極め、さらには男社会を敵に見立てて、階段を上っていった。女性初の総理候補者として、何度も名を取り上げられている。ここまで権力を求め、権力を手にした女は、過去にいない〉

 女性の政治進出は日本は遅れている。
 女性史に力を注ぐ石井さんは小池氏の「快進撃」に際して気持ちは重く塞(ふさ)ぐばかりという。
 実現したい政策や政治哲学は見えず、目立ちたいという目的意識が前に出る。

 かつて小池氏と衆院旧兵庫2区で戦った土井たか子氏(元衆院議長、故人)を挙げて「毅然(きぜん)として人間に核があった。そんな女性政治家がいなくなった」。
 女性議員は増える傾向だが、「男性がスカウトしてきたような人ばかりで男性社会に過剰適応しようとする。首相に好かれようと妍(けん)
を競う。女性だからと選ぶとだまされてしまう」と嘆いた。

◇ 期待裏切る

 紅一点を好み、権力者に近づき、引き上げられたいと願う。
 その一方で自身と競合する女性を敵視し、社会的弱者への関心は薄い。

 2005年、環境相在任中、尼崎市のクボタ石綿禍が発覚。
 国は救済法制定に動く。
 補償に踏み込むのか。
 患者らは古い男性政治家や官僚出身者ではなく「女性でクリーンで善良そうな」小池大臣に好感を抱く。

 尼崎で患者と面会した際、「崖から飛び降りますよ」と期待させる物言いをする。
 可決された法案の内容は補償にほど遠く、官僚が主導した「見舞金の延長」にとどまった。

 2016年、「崖から−」「ジャンヌダルクになる」と叫んで都知事に就任。
 築地から豊洲への市場移転の際も対応は石綿禍と同様だった。
「築地は守る、豊洲を活(い)かす」と築地に市場機能を残すことを期待させる発言をしたが、反故(ほご)に。
 また2017年の衆院選で新党「希望の党」を率いた時、当時の民進党との合流方針を巡り、政策や理念の合わない候補者を選別する「排除の論理」をふりかざした。
 その発言を機に失速し敗北した。

◇ ビニールシート

 石井さんが小池氏を注視し始めたのは前回の都知事選だった。
 自民党都連とのバトルで注目を集め、フィーバーが巻き起こった。
 駅前はシンボルカラーの緑を身につけた人で埋まった。

「人々は彼女を見て空をゆく飛翔(ひしょう)体に例え、すごいエンジンを持つロケットみたいだとほめそやす。私は疑問を持った。この人はただのビニールシート。風に舞って高く上がるが、落ちてきたらエンジンも翼もない。でもビニールだから強い。どんな風にも乗れてしまう」

 スポットライトを浴びるほどに表情が輝く。
 折しも新型コロナウイルスの感染拡大で露出が増えている。

「小池百合子というのは実は存在せず、彼女が作り上げた理想のキャラクターなのだろう。そんな蜃気楼のようなものに大衆は快哉(かいさい)を叫ぶ。メディアであおる手法は維新の吉村洋文大阪府知事や橋下徹・元府知事に通ずる。軽視していると危うい。扇動された後の殺伐とした光景を想像しなければならない」


[写真]
「私たちの写し鏡だと思って批判的に見ていかないといけない」と話す石井妙子さん=神戸新聞社

神戸新聞、2020/7/9 12:30
石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋、2020年5月)
蜃気楼に喝采送る危うさ
100人超の証言集め数奇な半生描く

(加藤正文)

※ 石井妙子(いしい・たえこ、ノンフィクション作家、1969年神奈川県茅ケ崎市生まれ)
白百合女子大大学院修士課程修了。
・ 伝説の銀座マダムの生涯を書いた「おそめ」(新潮文庫、2009年3月)、
・ 謎に包まれた映画女優の実像に迫った「原節子の真実」(新潮ドキュメント賞受賞、新潮文庫、2019年7月)
など。

 都知事選が終わり、予想どおり小池百合子氏が再選を果たした。
 メディアは「圧勝」と報じた。
 だが、「圧勝」というには、あまりにも熱の感じられない選挙ではなかったか。

 4年前の都知事選はお祭りのような騒ぎだった。
 告示日前から連日、テレビは小池氏や他候補者を追いかけて実況中継し、ワイドショーを賑わせていた。

 それなのに今回はいったい、どうしてしまったのか。
 コロナ禍という問題があったにしろ、テレビは候補者による討論会さえ一度も開かず、街頭演説も報道しなかった。

 小池氏はイメージ戦略に長けた政治家であり、つねにメディアをコントロールして選挙を戦い、現在の地位を確立してきた。
 そんな小池氏が今回取った作戦は、「雲隠れ戦術」とでもいうべきものだった。
 4年間の都政を振り返ってみれば、公約はほとんど達成されておらず、討論会に出席すれば他候補から、厳しく追及されたことだろう。
 また、拙著『女帝 小池百合子』で書いた学歴詐称疑惑といった問題も必ず取沙汰されたであろう。
 街頭演説に出なかった理由もヤジを飛ばされるのが怖かったからではないか。

当確後に小池都政を批判しはじめたテレビ

 テレビ局は小池氏が出席しないと言うのであれば、彼女以外の候補者だけを集めて、討論会をすべきであった。
 それが報道機関のあるべき姿であろう。
 だが、その義務を怠り、討論会そのものを開かなかった。

 7月5日の投票日になって選挙特集を組み、当確が打たれた後で、記者たちが小池都政に対する批判や印象を述べているのを見たが、こうしたことは投票日前にしなければ意味がないのではないか。

 よく、「選挙期間中なので候補者を公平に扱わなくてはならない」という意見をメディアの人間が口にすることがある。
 しかし、選挙期間中に候補者の問題点を報じてはならない、という法令などない。
 メディアが自主規制しているだけだ。
 国民の知る権利に応えるためにも、報道機関はむしろ積極的に候補者の情報をプラスであれ、マイナスであれ、責任を持って出すべきであり、それをしてこそ報道機関といえるのではないか。

 小池氏が討論会や街頭演説を拒んだ結果、他候補はテレビで紹介される機会を奪われた。
 その一方、小池氏はコロナ報道で連日、会見を行い、テレビに姿が映された。
 これこそ、公平とは言えない。

「選挙はテレビよ」と豪語していた小池氏

 私は5月29日に拙著『女帝 小池百合子』を出版したが、発売からほぼ2ヶ月で実売部数20万部を超えている。
 この本が多くの読者に迎えられた理由のひとつには、知るべき情報が得られないという都民、国民の不満や不安が挙げられるのではないかと思う。

 拙著はネット上では大きな評判となり、また雑誌、ラジオでもさまざまに取り上げられた。
 選挙後は一部の新聞社でも取り上げられている。
 だが、テレビだけは頑なに、今も一切、報じようとしない。

 なぜ、テレビは取り上げようとしないのか。
 巷間、言われているようにテレビ局は東京都の認可を必要とする機会が多く都庁には逆らいづらい、オリンピックも控えており、都知事に気を遣っているからなのか。
 仮にそうだとするならば、由々しきことである。
 ネットが台頭しているとはいえ、テレビの影響力は依然として圧倒的に強い。
 人びとはテレビで報じられないことは、この世で起こっていないと感じてしまう。
 それを小池氏はよくわかっているのだろう。

 日本新党時代から小池氏は同僚議員に、「選挙はテレビよ」と豪語していたという。
 テレビを味方につければ勝てるという意味である。

告発者の身の安全をどう守るか

 拙著の中で重要な証言をしている早川玲子さん(仮名)という女性がいる。
 小池とカイロで同居していた女性である。
 一部に「匿名であるのはおかしい」という声があるらしい。
 だが、私は逆にこう問いたい。

 真実を勇気をもって命がけで証言しようとする市井の人に対して、そこまでの負担を強いるのか、と。
 あるいは、匿名という条件でなら話をしたい、顔や本名は伏せたい、という証言者に対して、それなら必要ない、と断ってしまうのか、と。

 告発者の身の安全、将来を真剣に考えなくてはいけない。
 日本ではこれまでも勇気をもって真実を告発した人たちが権力者からの逆襲に会い、マスコミからは一瞬だけいいように使われて、大変な思いをする、という例がいくらでもある。
 私は早川さんをそのような目には絶対に遭わせたくないし、どこまでも守りたい。
 早川さんの書いた手紙、早川さんの所有する小池氏との写真まで本書では公開しているのだ。
 後は読者ひとりひとりに判断して頂ければと思う。

 本文(「文藝春秋」8月号)では、私が早川さんと出会うことになった事情を中心に拙著が世に出されるまでの流れを書き、合わせてメディアによって生み出された「小池百合子」という人物を書く中で抱いた所感を述べている。
 ご一読いただければ、有難い。


文春オンライン、2020年7月11日
小池百合子「冷めた圧勝劇」の不可解さ
報道機関としての責任を放棄した“テレビの大罪”
『女帝』著者・石井妙子が見た都知事選

(石井妙子)
https://bunshun.jp/articles/-/38944

 東京都文京区は2020年7月11日、区立保育園で新たに保育士1人と園児18人の感染が明らかになったと発表した。
 すでに保育士と園児計3人の新型コロナウイルス感染が判明しており、この園の感染者の合計は園児20人、保育士2人の22人となった。

 区では引き続き、家族ら濃厚接触者の調査を進め、対象者への大規模な検査を実施する。
 同園は10日に3人の感染が判明した際、20日まで休園することにしていたが、感染拡大を受けて22日までに延長する。


朝日新聞、2020年7月11日 19時46分
東京・文京区の保育園で感染拡大
園児ら計22人が陽性

https://www.asahi.com/articles/ASN7C6H66N7CUTIL01K.html

・・・これでも「夜の街」と言い続けるのだろうか?・・・

posted by fom_club at 05:45| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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