2019年11月20日

G7で2番目に高い日本の相対的貧困率

 日本は、貧困国でしょうか。

「貧困」と聞いて大ぜいの人がイメージするのは、アフリカの貧困国のように、極端に背が低くガリガリに痩せ細った子どもたちの姿かもしれません。
 しかしGDP規模が米国、中国に次ぐ第3位の日本において、そのような光景を目の当たりにすればそれは「事件」です。

 そうした貧困は「絶対的貧困」と呼ばれ、世界銀行では「1日1.90米ドル(約200円)未満で生活する人びと」と定義されています。

 2015年には全世界で約7.36億人いると試算されています。

米国に次いで高い日本の「相対的貧困率」

 貧困にはもう1種類、「相対的貧困」と呼ばれる指標があります。
 その国の文化・生活水準と比較して困窮した状態を指し、具体的には「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人びと」と定義されています。

 日本の相対的貧困率は、12年は16.1%、16年は15.7%もありました。
 約6人に1人は「相対的貧困」なのです。
「OECD経済審査報告書(2017年)」には、国別の相対的貧困率が掲載されています。
 日米欧主要7カ国(G7)のうち、日本は米国に次いで2番目に高い比率になっています。
 日本は、貧困国でしょうか。


[グラフ]
日本の相対的貧困率はG7の中で米国に次いで高い

「昔はもっと貧しかった」と主張される方もいます。
 では、ご自身の学生時代を江戸時代と比較して「あなたは昔に比べて裕福だった」と言われたら、どのような気分になるでしょうか。
 それと一緒で、成長を続ける現代において昔との比較は意味がありません。

 相対的貧困とは、あくまで相対的なものであり、概念であり、目で見えにくい。
 だからこそあまり注目を集めず、今も苦しんでいる人たちがいます。
 ちなみに国立社会保障・人口問題研究所が2017年7月に実施した「生活と支え合いに関する調査」によれば、「ひとり親世帯(二世代)」の約36%が食料の困窮経験について「あった」と回答しています。

[グラフ]
食料の困窮経験が「あった」世帯の比率

 持続可能な社会を目指すなら、相対的貧困は低い方が良いといわれています。
 実際、SDGs(持続可能な開発目標)では、「目標1」として「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」と掲げるだけでなく、「目標10」に「各国内および各国間の不平等を是正する」と掲げ、相対的貧困層の減少を訴えています。

 それは、なぜでしょうか?

「相対的貧困層」は若者、老人、ひとり親の家庭に多い

 まず、相対的貧困層とはどのような人たちが多いかを調べてみます。

 貧困に関する研究の第一人者である阿部彩先生(首都大学東京教授)の「貧困統計ホームページ」に、詳細な分析結果が掲載されています。

[グラフ]
出典:阿部彩(2018)「日本の相対的貧困率の動態:2012から2015年」科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(基盤研究(B))「『貧困学』のフロンティアを構築する研究」報告書

 この結果から、主に10代後半〜20代前半の若者と70代以上の高齢者の相対的貧困率が高いと分かります。
 70代後半の女性の4人に1人が相対的貧困というのは、なかなか衝撃的な結果です。

 少し違った角度で見てみましょう。
 20〜64歳における世帯構造別・男女別の相対的貧困率は以下の通りです。

[グラフ]
出典:前掲、阿部彩(2018)

 母子・父子家庭を意味する「ひとり親と未婚子のみ」の相対的貧困率が他世帯構造と比べて高いと分かります。
 もちろん、その家庭で暮らす子どもも「相対的貧困」に含まれます。

 子どもの貧困率(子ども全体に占める貧困線に満たない子どもの割合)は「平成28年国民生活基礎調査」によると13.9%、実に7人に1人の子どもが貧困だと分かりました。
 ひとり親の場合、貧困率は50%を超えます。

 10代後半〜20代前半の若者、70代以上の老人、そして母子・父子家庭(子ども含む)。
 この3つの層に、相対的貧困が多くいると言えるでしょう。


「相対的貧困」家庭の子どもは相対的貧困に陥りやすくなる

 20歳未満の若者・子どもが、相対的貧困の場合、それはどのような影響を及ぼすでしょうか?

 「全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)の平成29年度追加分析報告書」に、家庭の「社会経済的背景(SES)」と小学6年生、中学3年生の学力の関係を分析した結果が掲載されています。

※ 社会経済的背景(Socio-Economic-Status、SES):
子どもたちの育つ家庭環境の諸要素(特に保護者の学歴・年収・職業など)のこと。ただし固定的な定義があるわけでなく、調査によって定義や分類に使われるデータは異なる

 この調査では、家庭の社会経済的背景(SES)を「Lowest」「Lower middle」「Upper middle」「Highest」の4階層に分け、それぞれの家庭収入、父親の学歴、母親の学歴について以下のようにまとめています。

[表]
出典:文部科学省「全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)の平成29年度追加分析報告書」

 この中では、Lowestが相対的貧困層に比較的近いのではないかと考えます。

 家庭の社会経済的背景(SES)別の小学校6年生の平均正答率は、以下のようになっています。
 棒グラフは平均正答率、丸い円が変動係数(標準偏差を平均値で割った値で高いほど正答率にばらつきがある)を意味しています。

[グラフ]
小学6年生におけるSES別の平均正答率と変動係数

 どの科目も、家庭の社会経済的背景(SES)が高いほど平均正答率が高まり、変動係数は低くなるという結果でした。
 では、中学校3年生の平均正答率も見てみましょう。

[グラフ]
中学3年生におけるSES別の平均正答率と変動係数

 同じような結果を示しました。
 家庭の社会経済的背景(SES)が平均正答率と何らかの関係があるとうかがわせます。

 もっとも、この結果だけでは「両親の学歴が低い・年収が低いから、子どものテストの点数も悪くなる」と言えません。
 なぜならLowestの変動係数が相対的に見て高いということは、高い学力水準を持つ生徒もいると言えるからです。
 あくまで「平均正答率の平均値が低い」だけしか分かりません。

 ただ、平均正答率の平均値が低ければ、大学に入学せず就職したり、職場でも単純労働に従事したりするなど、その後の生涯収入に影響を及ぼす可能性があります。

 2009年公表と、少し古いデータになりますが、東京大学の大学経営・政策研究センター「高校生の進路と親の年収の関連について」によると、両親の年収別の高校卒業後の進路は以下の通りでした。
 年収が高まるほど大学に進学するか浪人する比率が高まり、かつ就職する率が低くなります。

[グラフ]
両親年収別の高校卒業後の進路

 また、2019年に発表された内閣府の子供の貧困対策「子供の貧困に関する現状」によると、子どもの大学(専修学校等含む)進学率の推移は、ひとり親家庭、生活保護世帯など金銭的な問題が考えられる世帯は、全世帯に比べて相対的に低い結果となりました。

[グラフ]
子どもの大学(専修学校等含む)進学率の推移

 本人が自らの意志で「大学に行かない」と選んだならともかく、「大学に行けない」と言わざるを得なかった。
「学ぶ環境」が無く、適切に学業を修められなかった。
・・・これこそが貧困が与える影響でしょう。
 その結果、その家庭に生まれた子どもも相対的貧困に陥りやすくなる。
 結果、貧困は連鎖し、再生産されてしまう。

 これこそが「持続可能性が無い社会」なのでしょう。
 こうした状況を「学ばないおまえが悪い」と斬って捨てるほどの自己責任論者にはなれません。
 このような状況を放っておいてよいはずがありません。

捕捉率の把握を目的とした継続的な統計データは無い

 貧困から抜け出すための手段の1つは生活保護です。
 しかし日本は海外に比べて捕捉率(生活保護を利用する資格がある人のうち実際に利用している人の割合)が低い
といわれています。

 日本弁護士連合会(日弁連)が作成したリーフレットでは、日本の捕捉率は15.3〜18%としています。
 一方でドイツは64.6%、フランスは91.6%と高水準とされています。
 しかし少なくとも日本の数値は推測であり、真の実態は不明です。
 実は、捕捉率の把握を目的とした継続的な統計データは無いのです。

 旧民主党政権下の10年4月に、厚生労働省に「ナショナルミニマム研究会」が開催され、初めて生活保護の捕捉率の推計が公表されました。
 ただし「国民生活基礎調査」(2007年)を用いた類推です。
 ちなみに、政権交代の影響か以降の捕捉率は公表されていません。

 生活保護を受給するには、「収入要件」や「貯蓄要件」(貯蓄残高が生活保護基準の1カ月分未満)のほかに、「就労要件」(働けるか否か)、家族による扶養義務者の有無(家族の中で扶養してくれる人がいるか否か)など、さまざまな要件をクリアする必要があります。
 これらのうち後者2つは「国民生活基礎調査」からは分かりません。

 研究会の資料によると、所得が生活保護の「収入要件」より低い低所得世帯は、全4802万世帯中597万世帯(12.4%)でした。

 一方、「貯蓄が保護基準の1カ月未満で住宅ローン無し」という生活保護の「貯蓄要件」に当てはまる世代は229万世帯(4.8%)となりました。

 当時の生活保護世帯は108万世帯ですから、所得要件のみで判定すると、捕捉率は15.3%(108万人/108万人+597万人)となります。
 資産要件のみで判定した捕捉率は32.1%(108万人/108万人+229万人)となります。
 これではいろいろな要件を加味した実際の捕捉率は分かりません。

貧困率が下がると捕捉率も下がる不思議

 そんな中で、学術研究の一環として就業構造基本調査の「オーダーメード集計」を用いて、都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、生活保護の捕捉率を集計した論文を発表されたのが山形大学の戸室健作准教授です(*)。

※「オーダーメード集計」:
既存の統計調査で得られた調査票データを活用して、調査実施機関等が申し出者からの委託を受けて、そのオーダーに基づいた新たな統計を集計・作成し、提供するもの

 論文によると、全国の捕捉率(所得のみ)は1992年14.9%、1997年13.1%、2002年11.6%、2007年14.3%、2012年15.5%と推移しています。
 10%台前半で推移というデータは日弁連が作成したリーフレットともだいたい合っています。

 論文の中に掲載された都道府県別の貧困率と捕捉率で散布図を作製すると意外なことが分かります。

[図]
都道府県別の貧困率と捕捉率の散布図

 都道府県別に見て、貧困率も捕捉率もこんなに散らばっています。
 貧困率が高くてもしっかり捕捉している大阪に対して、ほぼ同じ貧困率なのに捕捉できていない宮崎。
 この差はいったいどこにあるのでしょう?

 また、貧困率が低いと、捕捉率が低くなる傾向にあるのも気になります。
 捕捉率は「生活保護が必要な世帯に保護が行きわたっているか」を表す指標なので、本来はこの2つの指標は無相関になってもおかしくありません。
 それなのに、貧困率が低いと補足率が低くなる(貧困なのにそう見なされていない人が多くなる)のはなぜでしょうか。
 貧困率が低いことに安住して、捕捉率を高める自治体の努力がおろそかになるなら問題です。
 予算をかけて早急に改善すべきではないでしょうか。

 さらにいえば、「どこに住んでいるか」によって捕捉率が異なるなら、所得だけでなく場所ですら「貧困を生む要因」になりかねません。
「私は〇〇県だったから生活保護ももらえず貧しい人生を過ごす羽目になった」なんて、絶対にあってはならないことです。

 数字を見えないままにしておくと、あるはずの現実も無いことになってしまいます。
 それが生活保護を巡る現状です。貧困の実態は3年に1回の国民生活基礎調査(厚生労働省)と、5年に1回の全国消費実態調査(総務省)のデータを加工しないと分からないのが現状です。
 こうした状況でよいのでしょうか?
 これは、行政を動かす政治家の仕事です。

日経ビジネス、2019年11月19日
G7で2番目に高い日本の相対的貧困率。そこで何が起きている?
(松本 健太郎、株式会社デコム データサイエンティスト)
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00067/111200016/

(*)山形大学の戸室健作准教授
しんぶん赤旗、2016年3月15日(火)
貧困世帯、1992年から20年で2.5倍
山形大・戸室氏の研究で明らかに
都道府県別の実態示す

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-03-15/2016031501_03_1.html

posted by fom_club at 18:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。