2019年11月20日

民間試験導入だけでなく、小学校英語教科化も

 大学入試への英語民間試験導入は、制度設計の杜撰さもさることながら、決定プロセスにも大きな問題があったことは関係者の間では有名である(*)。
 この点は長らく関係者内だけでの「公然の秘密」であったが、最近になってようやく一般のメディアも報じるようになった。

 実は、小学校英語教科化(2020年4月〜)にもまったく同じ状況があった。
 しかし、一般にはほとんど知られていないように思うので、その点について説明したい。

官邸主導の英語民間試験導入

 小学校英語の話の前に、民間試験導入の決定プロセスを簡単に確認しよう。

 以下のデイリー新潮の記事を引用する。
☆ 英語民間試験ごり推しの裏に「ベネッセ」の教育利権…高校も大学も逆らえない
(デイリー新潮)
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11130558/
 京都工芸繊維大の羽藤由美教授は、
「今回の入試改革をさかのぼれば、安倍内閣のもとで13年、教育再生実行会議が第4次提言を公表したことに端を発します。このときの文科相は下村さんで、それ以来、すべては“民間ありき”でズルズルと話が進んでいきました」
…中略…
「13年6月、“大学の英語入試への民間検定試験の活用をめざす”という内容が盛り込まれた、第2期教育振興基本計画が閣議決定されました。ただ、そこに至るまでの前段があります。13年2月、楽天の三木谷浩史会長兼社長が、自民党の教育再生実行本部で“英語ができないため日本企業が内向きになって、世界の流れに逆行している”と指摘、大学入試にTOEFLを導入することを提言しました」
 すると、それを受けるかたちで翌3月に、
「遠藤本部長の下、実行本部がまとめた教育改革案に“TOEFLを大学入試に活用する”という内容が組み込まれました。続いて5月には、教育再生実行会議が、“TOEFLなどの民間試験の活用”などを含む提言を安倍総理に提出し、翌月の閣議決定につながっていきます」

 以上を要約すると、次の通り。
・ 2013年2月 自民党教育再生実行本部で委員が提案
 ↓
・ 同年5月 教育再生実行会議(首相の私的諮問機関)で提言
 ↓
・ 同年6月 第2期教育振興基本計画を閣議決定

 2013年に一部の委員の熱烈アピールによって検討が始まり、結果、ごく短期間の間に官邸主導の形で――要するに、各所との総合調整なしで――導入が決まった。

小学校英語教科化はどうか?

 小学校英語の教科化も上とかなり近い。
 2013年6月に、上述の第2期教育振興基本計画(閣議決定)に、官邸主導で盛り込まれたからである。

 実はその2ヶ月前の4月、文科省の審議会である中央教育審議会(中教審)が第2期教育振興基本計画について答申を出している。
 そこには教科化の「きょ」の字もなかった。

 この中教審の有識者(および文科省)が示した結論を尊重するのであれば、首相はその答申で示されたプランをそのまま第2期教育振興基本計画として閣議決定することになる。
 しかし、安倍内閣はそうせず、むしろ教科化を新たに付け加えた。
 わずか2ヶ月の間に、重大な変更を行ったのである。

 以下の画像は、4月の中教審答申と、6月の閣議決定を比較したものである(画像:略)。
 閣議決定の「主な取り組み」の部分に、以下の教科化提言が新たに追加されていることがわかる。
 また、小学校における英語教育実施学年の早期化、指導時間増、教科化、指導体制の在り方等や、中学校における英語による英語授業の実施について、検討を開始し、逐次必要な見直しを行う。

(余談ながら「TOEFL等」の文字列も閣議決定で新たに書き込まれたことがわかる)

トップダウンのツケ

 教科化はたった2ヶ月の間に官邸主導で決定されたわけである。

 とはいえ、短期間だったとしても、それに見合うだけの濃い議論を経たのならまだ納得がいく。
 しかし、筆者が関係会議の議事録(および報道記事)をいくら調べても実際には詳しく審議をした形跡は出てこなかった。
 たとえば、教育再生実行会議では教科化に関する議論がほとんどなされていない(そもそもこの頃の同会議の主たるテーマは大学教育改革であり、小学校教育は周辺的なテーマだった)。

 端的に言えば、教科化は「拙速な決定」以外の何物でもなかったと言えよう。

 筆者が以前からヤフーニュース(個人)で指摘してきたことだが、小学校英語は大変な苦境に直面している。
 そうした苦境に対する考慮は一切なく、ただ誰かが思いついた教科化プランをを、トップダウンで押し付けた格好である。

 たとえ、トップダウンだったとしても、最終決定に至るまでに相当の熟議を経ているのならまだわかる。

 小学校教育が直面する課題について綿密に調査し、それをもとに徹底的な議論を行い、それでも教科化をすることに意義があると考えたのなら、首相が自身の責任をかけて決断する。
 その当然の帰結として、関係機関・関係者には予算措置をはじめとして相応の配慮を行う。それが本来の「健全なトップダウン」のはずである。

 しかし、教科化はその対極である。

 思いつき、拙速な議論、総合調整の欠如という、トップダウンの悪い面だけを凝縮したような決定過程であった。


[参考]
☆ 働き方改革を阻む小学校英語(寺沢拓敬)
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20171128-00078674/
☆ 図解:小学校英語になぜ予算がつかないのか(寺沢拓敬)
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20170221-00067950/

Yahoo ! News Japan、2019/11/18(月) 7:00
民間試験導入だけでなく、小学校英語教科化も、安倍内閣による官邸主導
寺沢拓敬、関西学院大学社会学部准教授
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20191118-00151312/

(*)大学入試への英語民間試験導入
立憲民主党・枝野幸男代表(発言録)
(延期が決まった英語民間試験について)なぜ、こんなおかしな制度を作ることになったのか。
 私の承知する限りでは、一番の原動力になったのは、(教育再生実行会議のメンバーだった)下村(博文)元文部科学大臣ではないかと思っている。
 下村元大臣が(英語民間試験を)導入しようとしたいきさつ、これが一番本質的な問題ではないか。
 しっかりと問いただしていきたい。
(4日、福島県いわき市で)


[写真]
立憲民主党の枝野幸男代表=4日午前10時59分、福島県いわき市

朝日新聞、2019年11月4日13時59分
枝野氏
英語試験「下村元大臣の導入のいきさつが本質」

https://www.asahi.com/articles/ASMC44FPQMC4UTFK006.html

 今月導入が延期された英語の民間試験について、東京大学は去年2018年4月、それまでの慎重な姿勢を転換し、活用へとかじを切りました。

 今回、NHKは、その直前に開かれた自民党の会議の音声データを入手しました。
 そこでは大臣経験者が、東京大学に民間試験を活用するよう、文部科学省に指導を求める発言などをしていたことが分かりました。
 専門家は「大学が萎縮する発言だ」と指摘しています。
 これについて、東京大学は外部からの影響はなかったとしているほか、大臣経験者は「発言は当たり前で議院内閣制の意味も無くなる」と話しています。

自民党 教育再生実行本部の会合で

 大学入学共通テストの英語の民間試験について、文部科学省は今月2019年11月、導入の延期を決めましたが、その決定過程などが不透明だと批判されています。

 NHKは、去年4月13日に開かれた自民党の教育再生実行本部の音声データを入手しました。
 この会合には、自民党の国会議員に加えて、文部科学省の幹部や、大学の関係者なども呼ばれ、英語の民間試験をテーマに意見が交わされました。
 当時、文部科学省は、民間試験を大学入学共通テストに導入すると公表していましたが、多くの大学はそれを活用するか、態度を表明せず、東京大学が去年3月に、現時点では入試に活用することは拙速だと会見で表明したことが注目を集めました。
 会合では、主査を務めた遠藤利明元オリンピック・パラリンピック担当大臣が、東京大学の五神真学長らが訪ねてきて、会見の内容を説明したと報告しています。

 さらに、下村博文元文部科学大臣が、東京大学の名前を挙げて、「間違ったメッセージを国民や他大学に対して、与えている。文部科学省は、よく東大に指導していただきたい」などと発言していました。

 東京大学は会合の2週間後に、民間試験の活用を検討すると方針を転換しました。

 大学入試の方法や内容は、憲法が保障する学問の自由に基づいて、大学の権限で、決めることになっています。

 取材に対して、東京大学は、「文部科学省や政治家からの指導や問い合わせはありません」と回答しました。

英語民間試験 判断揺れた東大

 文部科学省は、2020年度にスタートする大学入学共通テストの大きな柱として、2017年7月に英語の民間試験導入を決めました。
 しかし、大学側がどこまで活用するかは未知数でした。

 大学がどのような入試を行うかは国公立、私立を問わずに、憲法が保障する学問の自由により大学が決めることになっているためです。

 そんな中、全国の国立大学で作る「国立大学協会」は、同じ年の11月、この民間試験を活用すると公表しました。

 しかし、各大学は、民間試験への不安などを理由にその活用方針を明らかにせず、国立大学、なかでも、東京大学の判断に注目が集まっていました。

 こうした中、東京大学は去年3月、記者会見で現時点で入試に用いるのは拙速だとして、民間試験の活用に消極的な考えを示しました。

 しかし、翌月の4月27日になって、突如、方針を転換し、国立大学協会の指針に沿って、民間試験の活用を検討すると声明を出しました。

 そして、去年9月、最初の年は、出願資格として活用することを公表していました。
<
strong>東大元副学長「学問の自由への政治介入には抵抗がある」

 下村元文部科学大臣の発言について、東京大学の元副学長で、民間試験を検討する作業部会で、座長を務めた石井洋二郎名誉教授は、「非常に残念な発言だ。当時は、多くの課題が未解決のまま民間試験の活用に走り出すことに危惧を覚えていた。大学の方針転換は誰もが疑問を感じ、内部の関係者もよくわからなかった。学問の自由に政治が介入することには抵抗がある」と指摘してします。

 一方で、「大学にも、予算的な懸念から政府と対立しないほうがいいという雰囲気が浸透してきている。大学は国民のものであり、国にただ従っているだけでは矜持を失ったと言われても仕方ない」と懸念を示しています。

下村元文部科学相「与党として当たり前の話」

 自民党の下村元文部科学大臣は、NHKの取材に対し、「『東京大学は象徴的な大学なので、文部科学省から導入してもらえるよう働きかけたらいいのではないか』というニュアンスのことを言ったと思う。いいものは使うべきだ。国立大学の多くが『導入する』と言っている中で、『導入してもらえるよう働きかけたらいいのではないか』と言うのは、当たり前の話ではないか」と述べました。

 その上で、「民間試験の導入を進めるべきだという立場にも関わらず、文部科学省に任せて一切何も言ってはいけないという指摘があるとすれば、逆に政治的な恣意を感じる。偏向だ。全て役人に任せて、役人の言う通りにやればいいというのであれば、与党の意味はなく、そもそも、議院内閣制の意味もなくなる」と述べました。

文部科学省「個別会議受け東大指導した事実ない」

 文部科学省は「国立大学協会を通じて、すべての国立大学に英語4技能の評価実施を働きかけてきたが、個別の会議を受けて東京大学を呼び出したり、指導したりした事実はない」としています。

高等教育学会元会長「大学が萎縮する発言だ」

 日本高等教育学会の元会長で筑波大学の金子元久特命教授は「かなりあからさまに言っていることに驚いた。国立大学は国の財政負担の上に成り立っており、国民が求める声にも、耳を傾けなければいけないが、国会議員が具体的に指示するのはおかしい。大学や教育の現場では政治家が強圧的な発言することはあってはならない。大学が萎縮する発言だ」と話しています。

行政学の専門家「『不当な要求』で大学自治を阻害」

 行政学が専門の東京大学先端科学技術研究センターの牧原出教授は、「政治家がこうした発言をすること自体は法的に問われるものではない。しかし結果的に、民間試験に不備があり延期になって混乱したことを考慮すると、今回の発言は、ある種の『不当な要求』と言える。東京大学の決定が他大学に与える影響を踏まえると、大学を萎縮させる発言だ。大学の自治を阻害するもので問題だと思う」と指摘しています。

 その上で、「文部科学省にも責任はあるが、役所ができないことを政治が推し進めてきたことは問題だ。下村元文部科学大臣は当初から導入に関与した立場であり、混乱を招いた結果責任は重いと思う」と話しています。

教育政策の専門家「一線を越えた発言だ」

 教育政策に詳しい名古屋大学大学院の中嶋哲彦教授は「与党にせよ野党にせよ、政治家が教育政策を文科省に伝えること自体は許されないものではない。しかし、入試は大学にとって教育の根幹に関わる命ともいえるものだ。教育基本法は、行政機関や政府が大学に介入する、不当な支配を禁じる規定がある。今回は与党の会議で強い影響力を持つ文科大臣経験者が文科省の担当者を集めて、事実上の指示をしているわけで大学に対する介入と受け取れる一線を越えた発言だ。政治家は行政機関に対して強い影響力を持っていると自覚した上での行動が求められるし、大学側も、国民、とりわけ受験生に対して大学自治の担い手として行動しなければならない」と指摘しています。

憲法は大学の自治を認める しかし形骸化の指摘も

 憲法や教育基本法は、学問の自由に基づき、大学が、外部からの介入や干渉を受けないとする、大学の自治を認めています。

 これは戦前に、京都帝国大学で起きた滝川事件や、東京帝国大学の、美濃部達吉の天皇機関説への攻撃など、学問の自由が侵された歴史の反省にたったものとされています。

 一方、大学自体もその閉鎖性から象牙の塔と称されるなど、改革を求める声は上がり続け、1960年代には、各地で大学紛争が相次ぎました。国も大学改革に力を入れ、2004年には、国立大学がそれぞれ法人化され、国が財政面に責任を負いつつ、大学の自立性は保つという今の形ができあがります。

 しかし、国が国立大学への予算となる「運営費交付金」を削減し続けるなか、もはや、「大学のことは大学が決める」という大学の自治そのものが形骸化していると指摘する専門家もいます。


NHK、2019年11月19日 18時42分
英語民間試験
下村氏「東大に活用するよう指導を」党内会議で

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191119/k10012183121000.html

posted by fom_club at 11:08| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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