2019年10月19日

自衛隊派遣

 2018年3月、当時の米国務長官、レックス・ティラーソンはアフリカに過剰な投資を繰り返す中国を次のように非難した。

「中国の投資はアフリカのインフラ格差を是正するのに有益かもしれない。しかし、不透明な契約や略奪的な融資、買収が横行する取引がアフリカを借金漬けにし、主権を弱体化させ、自立的な成長を阻んでいる」

 しかし、米国の強い調子の非難にもかかわらず、中国は投資の勢いを緩めない。

 やはり2018年の9月、中国・北京で開かれた中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で国家主席、習近平は、向こう3年間でアフリカに600億ドル(約6兆6000億円)の経済支援を行うことを約束。
 中国のアフリカ支援額は米国のそれを遥かに上回っている。
 その一方で、最貧国の債務返済を一部免除することも併せて発表し、米国の非難に配慮を見せた。

 ジブチでも事情は変わらない。
 先に触れた鉄道だけでも40億ドル(約4400億円)の資金が投じられている。
 この2年間だけをとってみても、融資額は14億ドル(約1500億円)。
 ジブチのGDP(国民総生産)の4分の3以上に当たる金額だ。

 総面積48平方キロメートル(羽田空港の4倍超)、35億ドル(約3900億円)もの巨費を投じて中国の企業群が建設、そして運営を行う予定なのがアフリカ最大の「ジブチ国際自由貿易区」である。
 2018年の夏に行われた一部完成を祝った式典ではジブチ大統領、イスマイル・オマル・ゲレも出席し、
「自由貿易ゾーンは国際通商貿易におけるジブチの地位を向上させる」
とその未来に強い期待を寄せた。

 黄色く塗られた正面ゲートにはジブチ国旗と中国国旗がたなびいていた。
 そのゲートの左側には、ほぼ完成しているホテルがその威容を誇っていた。
 まだほとんどが手つかずといっていいこの自由貿易ゾーンだが、その規模は想像を絶する。
 車で走ってみれば、その地区全体が地平線のようだ。

 砂漠の中をエチオピアに延びる幹線道路は、両国を行き交う大型トラック、タンクローリーなどがひっきりなしに走っている。
 この道はジブチの生命線だ。
 電力はエチオピアから送られ、水もエチオピアに依存している。
 エチオピアなしにジブチは生きていけない。
 それと、同じように中国の投資はジブチにとって欠かせないものになりつつある。

 見方を変えるならば、中国マネーはアフリカを、ジブチを麻痺させる麻薬に似ているかもしれない。

「全て中国のもの。もうジブチのものじゃない」

 あるジブチ政府の高官はこんな自虐的な言い回しでジブチにおける中国の進出ぶりを表現してみせた。

 48平方キロメートルという途方もない広さを占める自由貿易ゾーン。
 中国の投資はこれにとどまらない。
 この自由貿易ゾーンから連なるジブチの優良な港湾地域は中国資本によって、巨大開発が急ピッチで進められている。
 
「中国交建」「中国中綿建設集団」「中建信条」……、工事現場は建設を請け負っている中国の企業群の名前で埋め尽くされている。
 まさに全て中国のもの≠ネのである。

自由貿易区の中に築かれた中国軍基地

 町の中心部には巨大ショッピングモール、ホテルの建設も行われている。
 その先を望めば、そこは自由貿易ゾーンに並ぶように一昨年、中国が建設した中国初の海外での中国軍基地が望まれる。
 万里の長城のような外壁が延々と続き、中の様子はうかがい知ることはできない。

「一帯一路」という途上国にとっての甘い蜜≠ヘ、その国のインフラから、軍事転用可能なインフラへの投資から始める。
 ましてや、ジブチなどは、自由貿易ゾーンの中に、中国軍基地も含まれているのだ。

 昨年末、ボルトン米大統領補佐官が、中国軍基地が東アフリカの軍事バランスを崩していると警鐘を鳴らせば、現地の西側多国籍軍も中国軍が駐留軍ルールを乱すような動きを見せ始めていると警戒感を強めている。

 その基地近くには石油備蓄基地も出来ている。
 それに隣接する多用途の岸壁にはそびえるようなガントリークレーンがいくつも並んでいる。
 その様はいかなる物量でもびくともしないように見える。
 まさに、この地域はさながら中国租界の様相。ジブチから隔離した独立国家のようでもある。

 赤く染まるアフリカ、赤く染まるジブチ。

 巨大経済圏で世界を赤に染めようとする中国。
 しかし、それに対し、NOをつきつける動き、また巨額な債務が中国の動きを鈍らせ始めている。

 それは2.2兆円もの鉄道建設の計画を白紙に戻したマレーシア、誰も利用しない空港、高速道路を作り、残ったのは巨額の債務だけとなったスリランカ。
「一帯一路」のモデル国家と言われたエチオピアもGDPの59%という債務に喘いでいる。
 エチオピアの姿が、明日のジブチの姿ではないと誰が言えるだろうか。

 ジブチ、エチオピアが支え、経済的な成長が著しいアフリカの角=B
 軍事戦略上のチョークポイントであるこの地域、中国も国家の威信をかけ「一帯一路」の遂行、軍事基地の展開を考えるはず。
 ますます、この地域から目を逸らすわけにはいかなくなる。

 なぜなら、ジブチには自衛隊の拠点があり、シーレーン防衛も含め、日本は紛れもなく当事者だからだ。


[写真-1]
2018年7月に第一期エリアの一部がオープンした自由貿易ゾーンの正面ゲート。計画がすべて完成するとアフリカ最大となる

[写真-2]
自由貿易ゾーンの辺り一帯には中国企業の工事現場が点在する

[写真-3]
道路の先に中国の軍事基地が見えるが、近寄ることができない。数千人のキャパシティがあるとみられている

[写真-4]
中国の大規模投資で港湾開発が進むジブチ

自衛隊拠点.jpg

Wedge REPORT、2019年2月25日
中国軍初の海外基地は鉄道・港湾建設の見返りか?
「一帯一路」の衝撃・中国に飲み込まれるアフリカ・ジブチ
(後編)
児玉 博 (ジャーナリスト)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/15394

 安倍晋三首相は2019年10月18日、国家安全保障会議(NSC)を官邸で開き、中東情勢の悪化を踏まえ、自衛隊派遣の検討を関係閣僚に指示した。
 イラン沖ホルムズ海峡の安全確保に向けて米国が提唱する有志連合構想には参加せず、アラビア半島南部オマーン湾やイエメン沖で日本独自に活動する。
 防衛省設置法の「調査・研究」を派遣根拠とする。 

 菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で、ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動をしている海上自衛隊の護衛艦や哨戒機の活用に加え、別途、護衛艦の派遣も検討すると表明。
 日本船舶の防護は「ただちに実施を要する状況にはない」と述べた。
 政府高官は年内にも派遣を決定するとの見通しを示した。

 菅氏は派遣地域の候補にオマーン湾のほか、アラビア海北部、ジブチとイエメンの間にあるバベルマンデブ海峡東側を挙げた。
 河野太郎防衛相は派遣を検討する地域にホルムズ海峡を含んでいないと記者団に明らかにした。
 ホルムズ海峡を避け、友好国イランを敵対視しない姿勢を示す。

 日本はエネルギーを中東に依存しており、政府は航行の安全確保に貢献する必要があると判断した。
 米国主導の有志連合に加わらないことで、米国とイランの「橋渡し役」の立場も維持できるとみている。

 自衛隊の派遣根拠とする「調査・研究」は比較的安全な地域での警戒監視や情報収集活動を想定。
 国会承認の必要がなく、自衛隊を速やかに派遣できる。
 他国の船舶の護衛はできない。 

(上野実輝彦)

<解説>「橋渡し役」の限界露呈

 安倍晋三首相が中東への自衛隊派遣の検討を指示したことで、これまで模索してきた米国とイランの「橋渡し役」の限界が露呈した。

 軍事的側面の強い自衛隊派遣に踏み切れば、対話による緊張緩和を断念したとのメッセージを国内外に送ることになりかねない。

 ホルムズ海峡周辺の情勢が悪化した6月以降、日本政府は有志連合構想に対する米国からの参加要請に即答を避け、自衛隊派遣には言及してこなかった。
 その間、首相はトランプ米大統領、イランのロウハニ大統領と相次いで会談して打開策を探ってきた。

 米国の同盟国であると同時に、イランと伝統的な友好関係にある日本の独自性を示す外交努力だった。
 だが、米国とイランの対立が解消する見通しは立っていない。
 こうした状況で、米国の顔を立てて自衛隊を派遣しながら、ホルムズ海峡を避けてイランにも配慮する苦肉の策が浮上した。

 派遣の法的根拠にも問題がある。
 防衛省の組織や担当事務を定めた設置法による海外派遣は、苦し紛れの拡大解釈との批判を免れない。
 国会承認も必要ない。
 政府がこの手法を繰り返せば、自衛隊派遣は歯止めを失う。
 

(山口哲人)


[地図]
想定される自衛隊活動海域

自衛隊活動海域.jpg

東京新聞・朝刊、2019年10月19日
自衛隊、中東独自派遣へ
首相検討指示
有志連合参加せず

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201910/CK2019101902000150.html

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