2015年05月29日

野口悠紀雄

 奄美群島・加計呂麻(かけろま)島、いいでしょ!
 イマから7年も前の2008年秋の朝日新聞記事ですが、イマ読んでもふむふむ、とうなづける内容です。
 ですので、年齢などプラス7が必要ですね:

 寅さん、わたし、帰ってきたわよ。
 浅丘ルリ子(1940年生まれ、68)は今夏、奄美の加計呂麻島を訪れた。サンゴ礁に囲まれたこの島で1995年秋、「男はつらいよ」シリーズ最終作『寅次郎紅の花』のロケをした。渥美清(1928-1996)らとすごした日々が走馬灯のように浮かぶ。
 浅丘が『寅次郎忘れな草』でさすらいの歌手リリーを初めて演じたのは1973年、33歳のときだ。それまでマドンナといえば良家のお嬢さんだったり、貞淑な婦人だったり。
 監督の山田洋次(1931年生まれ、77歳)から最初に示されたのも、北海道の牧場で働く女性という役だった。浅丘は自分の細い手をみせる。「わたし、こんな手をしているんですよ」
 宝石の似合うその手を山田はじっと見た。しばらくして浅丘に台本が届く。「場末のキャバレーを渡り歩く歌手」に変わっていた。夜汽車の中でひとり、窓の外を見て泣く女。勝ち気なようで、家族に送られて出港する漁船を見ながら、寅さんにささやく女。
 〈ね、私たちみたいな生活ってさ、普通の人とは違うのよね。あってもなくてもどうでもいいみたいな、つまりさ……あぶくみたいなもんだね〉
 浅丘は旧満州で生まれた。父は官僚だった。瞳の大きな少女は15歳でデビューする。日活映画の黄金時代、相手役の石原裕次郎(1934-1987)や小林旭(1938年生まれ、69)に恋心を寄せた。
「私ね、いろいろな人に恋をしたの。何遍も恋をして、何遍もふられてみたかったの。燃えるような恋をしたかったの」
 30歳で石坂浩二(1941年生まれ、67)と結婚、のちに離婚。リリー役を4回演じた。寅さんは風来坊だけど、東京の葛飾柴又に、おいちゃん、おばちゃん、妹のさくらたちがいつも待っている。うらやましかった。

 ドラマの中のリリーは奄美に住んでいる。1995年のロケの日、島の人々がホテルで歓迎会をしてくれた。ひとりの少女が島唄を披露する。その美しい歌声に浅丘はおどろいた。
 翌日、撮影現場でその少女をみかけ、「あんたのテープ、買いに行ったよ」。大女優に声をかけられて仰天したのは当時高校2年だった歌手の元(はじめ)ちとせ(29)。彼女の島唄は『寅次郎紅の花』にも使われた。
 町営体育館での上映会。オープニングで自分の名前をみつけた元は「出た、出た!」。同級生と手をとりあって喜んだ。
 そのロケの最中、浅丘は渥美の異変に気づいた。
「とてもおつらそうなの。『寅さーん!』と抱きついても、以前ならボーンと受け止めてくれたのに、細いんです、すごく。組むのも悪いような気がしました」
 渥美はがんにおかされていた。いつもはよく響くあの声もかすれがち。スタッフは誰も知らされていなかったが、「私は思いました。絶対これが最後だわって」。9ヶ月後の1996年8月4日、渥美は逝く。68歳。

 浅丘の胸のなかで、渥美は寅さんと分かちがたく生きている。いまも渥美を語るとき、つい「寅さん」といってしまう。
 男くさくて粋で不良っぽくて、照れ屋で優しくて可愛くて、そしていつも笑わせてくれた。「私は愛していました。ほかのどのマドンナよりも、愛していました」
 リリーがいた青い屋根の民家を、南の島の人々は「リリーの家」と呼ぶ。いま住む人はないが、近所の人が雑草をむしり、掃除する。いつしか、こんな伝説も生まれた。
 テキヤ稼業を引退した寅さんは、この島でいまもリリーと暮らしている。海辺で釣りをする島の子たちに旅の昔話を聞かせている、と。
 風の吹くまま気の向くまま。寅さんに思いを寄せる人々をたずねて旅に出よう。

(2008年10月15日14時43分付け朝日新聞「私は愛していました」)
http://www.asahi.com/jinmyakuki/TKY200810150212.html

 ところで2008年秋、といえばヤッホー君、思い出すのが日経平均株価の大暴落。
 2008年9月12日(金)の終値は12214円でしたが、10月28日には一時、6994.90円まで下落した、と。
 ところが、2015年春の日経平均株価は、といえば…
 
 2015年5月28日(木)の東京株式市場は、円安で業績改善の期待が高まる輸出関連株を中心に買いが優勢となり、日経平均株価の終値は前日比78円88銭高の20551.46円と10日連続で上昇し、今年の最高値を更新した。10日連続の上昇は、バブル経済期の1988年2月に13日連続で上昇して以来、約27年3ヶ月ぶりだ。
(2015年05月29日毎日新聞東京朝刊)
http://mainichi.jp/shimen/news/20150529ddm008020203000c.html

 2008年秋のカブカは7年後、300%、3倍の伸び、もうまたしても完全に”バブル”再燃、ですよね。

 「リリー物語」に入る前に、ここで野口英世でなくって、野口悠紀雄(1940年生まれ、早稲田大ファイナンス総合研究所顧問)先生に登場してもらいます。
 なお先生には公式サイト「野口悠紀雄Online、ネットワークは力である」がありますので、ぜひご参照ください:
http://www.noguchi.co.jp/

 二つの論文をご紹介ましょう。
 まずは一つ目、2015年03月26日付け毎日新聞「アベノミクス:バブル崩壊25年」『結局、日本人はバブルから何も学んでいない』から:

 バブルの時には「こんなことがあるはずはない」と、非常に強い違和感を抱いた。特に不動産と株の価格の値上がりは、異常な状況でした。

 「東京都を売ればアメリカ全部が買える」などと言われるようになった。カリフォルニアにペブルビーチという美しい高級ゴルフコースがありますが、そこが日本の不動産会社に買収された。私はありえないと思った。ニューヨークのロックフェラーセンターを三菱地所が買い、そういうことが次々起こっていく。日本のNTTの時価総額がアメリカのAT&TとIBMを合わせたよりも大きくなったとか。それを誰も不思議に思わない。その異常さですね。1987年に私が東洋経済に書いたのは地価と賃貸料、フローとストックの価格の比較でしたが、その前提として「直感的に見て、これはおかしい」と。

 当時金利の自由化が行われようとしていて、転換社債やワラント債などいろいろな資金調達の手段が出てきて、それらを利用して安い金利で資金を調達できた。他方で大口預金の金利が自由化されてかなり高くなったので、お金を右から左に回すだけで稼げてしまう。それを当時「財テク」と称していたわけですが、そんなものはテクノロジーでも何でもない。虚業で多額のお金を稼げる一方で、真面目に働いても自分の住む家も買えない。本当におかしいことなのに、みんなそれに熱狂している。おかしいことだらけだった…

 今の経済の状況もそうです。日本の企業の利益はリーマン・ショック前の水準には届いていない。それにもかかわらず株価はどんどん上がっている。ある週刊誌には「株価は6万円を超える」と書いてありました。私のほうが聞きたい。「なんであなた方は懲りないんですか」と。バブルは結局、崩壊した。それによって多くの人が運命を狂わされ、国民は非常に大きなツケを払わされた。「それにもかかわらず、またやるんですか」と聞きたいのです。
http://mainichi.jp/feature/news/20150326mog00m020002000c.html

 次いで二つ目。
 それは、今日2015年5月29日の『東洋経済』から「1940年体制」です。
《安倍政権の本質は、戦時経済への回帰である - 野口教授、「ますますアナクロ化していく」》:

 2015年、日本は戦後70年目を迎える。その間、日本と世界はどのように変化したのか、あるいはしなかったのか。経済学者の野口悠紀雄氏は戦時期に作られた国家総動員体制を「1940年体制」と名付けたが、最新の著書『戦後経済史』(東洋経済新報社、2015年5月)の中で、「日本の経済システムは1940年体制をいまだに引きずっており、それが過去20年の停滞の原因にもなっている」と指摘する。70年を経てなお、日本を支配しているその体制とは―。

「経済活動に対する政府の関与を強める」という考えは、戦時中に岸信介など「革新官僚」と呼ばれた人びとが確立した、戦時経済体制の基本思想と同じものです。

 安倍政権は「戦後レジームからの脱却」を唱えていますが、その経済政策の基本的性格は、「戦時経済体制への回帰」なのです…

 1990年代以降の日本経済の長期的停滞も、基本的には、日本人が40年体制的な考え方(大組織依存、政府依存)から抜け出せないためにもたらされているものです。

「政府が経済成長を主導する」という考えは、現代の世界ではアナクロニズムになっているのです。安倍内閣の経済政策に欠けている最大のものは、この歴史認識です。

 正しい歴史認識を持ち、40年体制的な考えから脱却することができるかどうか、それが日本の未来を決めるでしょう。
http://toyokeizai.net/articles/-/71180


posted by fom_club at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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