2015年05月20日

太宰治と聖書

 太宰治と薬物乱用。
 三重大学名誉教授(医学部小児科)の櫻井實先生が野原一夫(1922-1999)氏の著書2冊の書評をこんなふうに記しています:

『太宰治と聖書』(新潮社、1998年5月)
 芥川龍之介と太宰治は、ある意味ではキリスト教信者からすれば評判は良くないが、わが国の小説家の中では、最も真剣に聖書を読み、その一語一句を噛みしめて理解しようと努力した人ではないかと思う。
 本書は、太宰がなぜに聖書に感銘を受け、悩まされて小説を書いてきたかを年代別に、かつ聖書の章句と比較しながら、解説を加えている。著者の野原一夫氏は、旧制浦和高校文芸クラブ時代に太宰に面接している。本格的に面識を得たのは第2次大戦が終わり、1946(昭和21)年11月に、太宰が疎開先の津軽から東京三鷹に帰り、流行作家として活発な文筆活動を始めた時より、1948(昭和23)年6月に玉川上水への入水心中自殺までの約一年半あまりの生涯を終える期間である。新潮社を皮切りに、出版や編集の仕事の面のみならず、大学の後輩としても、特に太宰にかわいがられて、私的にも親密な交流があった。野原氏自身も太宰の作品を通して才能の素晴らしさや、実直な人柄に心から尊敬の念を抱いていたものと思われる。

『回想 太宰治』(新潮社、1980年5月) 
 周知のごとく、太宰治(本名 津島修治)の生涯は、惨々たるもので、自他共に認める人間失格者そのものであった。
 1930(昭和5)年、津島家の大いなる期待を担って、東京帝国大学文学部に入学したが、殆ど登校せず、弘前高校時代より馴染みとなった芸者、初代と同棲、またマルキシストとして、非合法運動に加わり、特高警察に追われるなど、終に直接の影響が郷里に及び、実家の津島家から除籍、勘当を受けた。その後、非合法運動からは離脱できたが、大学は卒業できず、家族やマルキシストの友人を裏切った自責の念も強く抱いたまま、1933(昭和8)年、25才のとき太宰治を筆名として、自ら志した作家生活を始めることになる。同人雑誌への太宰の作品は、識者への共感を呼んだが、「人間失格」の意識が強く、鎌倉での心中未遂事件、1935(昭和10)年、急性盲腸炎に併発した腹膜炎の鎮痛、鎮静のためにバビナールが注射され、退院後も中毒症状が絶えず、家族や社会から狂人の扱いを受けるに至った。妻の初代が家族や、井伏鱒二と相談して、精神病院に入院、太宰は施錠され「人間倉庫」に移された。禁断症状がとれ、精神科医師の状況判断で、太宰が希望したうち、聖書だけが読むことを許された。太宰は聖書を読み、時に救われたが、さらに聖書の内容を追求して、自分の作品を書こうと決心したのはその時であったと 著者は述べている。その後の太宰の作品の多くが、聖書を意識してのものが多いが、野原氏は太宰研究者の多いなかで、彼の作品を聖書との関連で捉えている者は少ないという。聖書研究家である赤司道雄氏は自著『太宰治−その心の遍歴と聖書』(八木書店、1985年)の中で、特に太宰の作品は聖書研究の対象として、また日本精神史を理解するうえでも意義が深いこと、また太宰が聖書を最も良く読み、その理解者であったことを認めている。野原一夫氏にも、この点では同意しているものと思う。精神病院より退院後、太宰はイエス・キリスト伝を書こうと決心したが、イエスがあまり偉大で、畏敬の念がとれず、かえって反発してイエスを裏切ったユダに共感を得て、太宰流の解釈で3年後に「駆け込み訴へ」を完成させている。「己を愛するごとく、汝の隣人を愛せよ」…これが最初のモットーであり、最後のモットーです、と太宰は書いている。

(櫻井實「無題」三重大学図書館報『学燈』No.102(1999.3.30)所収)
http://www.lib.mie-u.ac.jp/about_library/gakuto/Gakuto102/Gakuto102.html

 井伏鱒二の証言:

 そのころ私の書きとめた「太宰治に関する日記」といふ記録に、
「北氏、船橋の薬屋の請求書を密かに小生に見せる。バビナールの代金四百円也。但し一箇月分。暗然たるもの胸に迫る。アンプールの空殻は、大家さん世間をはばかり穴を掘つていつも埋めゐたる由」と書いてゐる。
 当時、バビナールは一本三十銭から五十銭ぐらゐのものらしかつた。一度に三本も四本も注射して、日に何回となく注射してゐたもである。からだはもう衰弱しきつてゐた。顔も陰鬱な感じであつた。私は太宰に、
「僕の一生のお願ゐだから、どうか入院してくれ。命がなくなると、小説が書けなくなるぞ。怖いことだぞ」と強く云つた…

…井伏鱒二「太宰治の死」前掲書所収、13-14頁

 イマでも…

(共同)昨年2014年9〜10月に全国の医療機関で治療を受けた薬物乱用患者の34%が過去1年間に主に危険ドラッグを使用し、覚せい剤など他の薬物を上回って最多を占めたとの調査結果を厚生労働省研究班が7日までにまとめた。厚労省は、店舗やインターネットを対象に危険ドラッグ販売の取り締まりを強化しているが、専門家は治療体制の整備も必要と指摘している。
 研究班は全国の精神科病床がある医療機関1598施設に昨年2014年8月、協力を要請、同9〜10月の2ヶ月間に薬物依存症などで治療を受けた患者の有無や使用薬物の種類などを調べた。200以上の施設から1579人分の患者データが集まった。

(2015年5月7日18時07分付け東京新聞「危険ドラッグ使用最多34%、薬物乱用患者 過去1年に」)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015050701001443.html

(共同)警視庁上野署は4月23日、麻薬成分を含む危険ドラッグを所持していたとして、麻薬取締法違反(所持)の疑いで、人気映画『下妻物語』の原作者で作家の嶽本野ばら(本名嶽本稔明)容疑者(47)=東京都渋谷区=を逮捕した。
 逮捕容疑は3月上旬、台東区の路上で麻薬成分を含んだ危険ドラッグの植物片約2グラムを所持していた疑い。上野署員が職務質問して発覚した。
 嶽本容疑者は10代の少女を中心に人気があり「乙女のカリスマ」と呼ばれた。

(2015年4月23日17時24分付け東京新聞「下妻物語の原作者逮捕、危険ドラッグ所持容疑」)

 今朝も河北新報朝刊は次のように伝えています:

 同級生2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたとして、名古屋大の女子学生(19)=宮城県出身=が殺人未遂容疑で再逮捕された事件を受け、国が若年者への毒劇物販売の規制強化に向けた検討に入ったことが5月19日、分かった…
 宮城県は厚労省からの連絡を受け、同日中に県薬剤師会、県毒劇物協会などに通知を出し、身元確認の徹底、使用目的や使用量の適正化、一般消費者への販売自粛などを求めた。
 今回の通知のベースとなったのは、2005年10月、静岡県の女子高生=当時(16)=が地元薬局で購入したタリウムを母親に飲ませ、殺人未遂容疑で逮捕された事件。この女子高生は当時、年齢を16歳と正しく書類に記入したが、薬局側が見落とした。
 厚労省は、18歳未満への販売が禁じられたタリウムを、ともに購入年齢に満たない女子高生が薬局で入手した事実を重く受け止め、新たな通知を視野に「再発防止策をさらに検討したい」(化学物質安全対策室)としている。

(2015年05月20日水曜日付け河北新報「<タリウム事件>毒劇物販売、国が規制強化へ」)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201505/20150520_73012.html

 海の向こう、地球の反対側、聖書を大切にしているはずのイギリスでも:

I have specialised in addiction psychiatry for the past 12 years and in that time I've seen very significant changes in the field. Ten years ago, I was almost exclusively treating problems related to five substances: heroin, crack cocaine, powder cocaine, benzodiazepine and, of course, alcohol. Over the last five or six years I've seen a new group of problem drugs being used by a new group of users. These new drugs include ketamine, mephedrone, methamphetamine, GBL (gamma-butyrolactone) and a specific group termed "novel psychoactive substances" – sometimes misleadingly known as "legal highs"…

When a patient comes to see me, I try to understand the problems the drug is causing, but just as importantly, why they are using the drug in the first place. People typically start using psychoactive drugs either to experience new feelings, such as more confidence and increased energy, or to take away a feeling that they don't want, such as anxiety and distress. Understanding the initial purpose of the drug use is critical in helping a person make sustained changes in drug-using behaviours…

The good news is that addiction is a medical condition and with the right treatment people can and do achieve sustained recovery. But treatment is complex and needs to combine physical, psychological and social approaches. Treatment also depends on what a person wants. In my experience, it is crucial that a person with drug-related problems identifies their own goals rather than have them imposed by others. Telling people what to do just doesn't seem to work.
(Owen Bowden-Jones, a consultant psychiatrist and founder of CNWL Club Drug Clinic, talks about the problems associated with new drugs such as ketamine
Sunday 5 October 2014 10.00 BST)
http://www.theguardian.com/society/2014/oct/05/drug-addiction-psychiatrist-ketamine-gbl-mephedrone


posted by fom_club at 10:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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