2011年07月08日

ザビエルとその弟子

 加賀乙彦と光太郎、実はふたりともフランスのパリに住んで異文化の空気を吸っていたことがあるのです。
 光太郎は1906(明治39)年2月、まずはニューヨークに渡ります。23歳のときです。パリに移るのは2年後、1908(明治41)年6月のことです。
ちょうどビショビショ雨の降る日だった。そしてぼくの青春らしい青春は、パリからはじまったような気がする』と書くのは戦後、1951年『中央公論』10月号です。光太郎は、この翌年、1909(明治42)年6月に帰国します。

 加賀乙彦は、1957年、28歳のときフランスに留学し、パリ大学サンタンヌ病院、北仏サンヴナン病院に勤務し、1960年に帰国しています。
 
 だから加賀乙彦と光太郎も、祖国、ふるさと日本を外から見えるのだ、と思います。ムラ社会を外から眺めて、こころにひっかかることをためらわずに、そのまんま、自然に文章表現できるのでしょう。
 そして、共通してこころにひつかかるということ自体、異文化から学んだのはひょっとして、批判精神 esprit critique だったのではないか、と。
 
 加賀乙彦は晩年、カトリックに入信しますが、若い頃のフランス留学経験がなかったら、きっと次のような文学作品の着想にも思い至らなかったのではないか、と思えます:

加賀 キリシタン時代がザビエル来日からわずか65年でもって徳川家康によって息の根を止められてしまうのは、やはり布教のやり方に問題があったのではないかということですね。その過ちは、そもそもザビエルから始まっている。土着の宗教など、その土地の人々の尊重しているものをよく窮めた上で、お互いに尊敬しながら布教していくというのが本当の姿勢であるべきで、それがそういう具合にカトリック教会が変わってくるのは、1960年代の第2ヴァチカン公会議以降のごく最近のことなんですよ。私はカトリックの洗礼を受けたんですが、第2ヴァチカン公会議以前のあの硬直した布教精神だったら、私はカトリックにならなかったのではないかと思います。

加賀 いまの時点からザビエルを見直すと、アンジロウの言うようなことが見えてくる。しかしそのことは皆さん遠慮して書かない、聖人ですからね。日本のザビエル伝やザビエルを主人公にした小説は、どれも彼を完全無欠な聖人として書いているのばかりで、それは、やっぱり小説家の私としては面白くない。ザビエルにも欠点はある。周りの人間としょっちゅう衝突しますし、土俗の宗教について軽蔑感もつよい。そういうことはみんな隠して完全なザビエルにしているんですが、それは変だと思う。歴史の中の存在として正しくザビエルをとらえるべきです。私としては、聖人伝を書く気は全然なかったんですよ。『ザビエルとその弟子(2008年2月には講談社文庫に入る)』は、私としては小説の構造についてものすごく冒険したと思っています。人間ザビエルを書こうと思うと、どうしてもこういうかたちになってしまう。この小説がちょっとでも成功しているといいと思っているのは、ザビエルというのはああいう欠点のある、しかし面白い人物だということがわかってもらえたらと思うからです。遮二無二イエスの真似をして、日本へ来て、それから中国へ行こうとして挫折した。そういうダイナミックな人物で、神秘的な、不思議なところもあるとともに、欠点もある人物だった、そんなふうに読んでいただければありがたいんです

(2004年6月14日 東京・本郷の加賀乙彦さんの仕事場にて収録)
http://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_o_kaga.html

 ちなみにこれは、<e-hon>というウエブサイトの2004年8月号からですが、<e-hon>というのは、出版物取次(卸売会社)の(株)トーハンが運営するインターネット書店です。

 また光太郎も、こんなふうに歯に布着せぬ言い方をしています。
日本は4等国だとか5等国だとか言われているが、文化の上ではたしかにそうだ。文化の比例がとれていないからだ。自分で美を選択し、守って行けるようになるのは、大へんなことだと思う。
 もっともわたし自身、東京の町の比例をやぶって、三越でもどこでもゴム長で出かけるが、こんなことを遠慮せねばならぬほど尊敬する都でもないと思う。なぜならデパートの包紙までマチスになってしまって、しかもだれもそれをあやしまない。じつにおろかな都だからだ

(「おろかなる都」、初出は1952年11月『週刊朝日』)

posted by fom_club at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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